新しい「胃がんリスク検診」の基準値について 第56回日本消化器がん検診学会総会で発表しました
胃がんは幼少時のピロリ菌感染と、感染持続により萎縮性胃炎が進むことで発生しやすくなります。 逆に、幼少時にピロリ菌に感染しなかった人が、将来胃がんになることは稀です。 胃がんリスク検診(ABC分類)はピロリ菌感染の有無(HP抗体価)と、萎縮性胃炎の度合い(PG値)を採血で診断し、 この2つの値の組み合わせで、胃がんになりやすいか、なりにくいかを判定する検査法です。
ABC分類のA群はピロリ菌感染のない、胃がんになりにくいグループですが、近年このA群からの胃がん発生が問題になっています。 我々の調査では、胃がん検診で発見された胃がん227例のうち13例がA群でした。
ピロリ菌は幼少期に感染し、通常は除菌治療をしない限り、一生胃に棲み続け胃粘膜萎縮を引き起こしますが、 何かのタイミングで、たとえば副鼻腔炎などの治療でピロリ菌除菌に使うのと同じ抗生物質を飲むなどで、自覚がないままピロリ菌が除菌されてしまうことがあります。 ピロリ菌がいなくなることで、胃がんになる危険度は下がりますが、100%胃がんにならなくなるわけではありません。 ピロリ菌除菌治療を受けた人の約0.3%が毎年胃がんになっていることからも、過去にピロリ菌感染があった人は、はじめからピロリ菌に感染しなかった人と違い、胃がんの危険群です。 また、ピロリ菌検査は抗体検査といって、菌に対する免疫反応を見る検査なので、高齢になって免疫力が落ちると、ピロリ菌感染があるのに抗体価は陰性となってしまう場合もあります。 こうした人たちがA群に紛れ込んでくることで、A群からの胃がん発生がおこります。 A群の人たちには「胃がんになりにくいので、胃の検査を受けなくてもいいですよ」と説明することが普通なので、そこから胃がんが発生することは発見が遅れる原因にもなり、大問題なのです。
A群から発生した胃がんの人のデータを分析してみると、HP抗体価が陰性高値(陰性なのだけれど高い)が69.3%と多くを占めています。 HP抗体価は10以上が陽性ですが、10未満で陰性なのでけれど、3以上10未満と陰性の中で高め、というのが陰性高値グループです。 そこでHP抗体価と、ピロリ菌の感染状態を調べてみました。 6,446例の内視鏡検査、胃X線検査受診者のHP抗体価と、画像からみた萎縮性胃炎の状態から判断したピロリ菌感染状態を比較したところ、 3以上10未満の陰性高値の76.7%がピロリ菌の過去の感染者、9.3%が現在も感染している人、ということがわかりました。
そこで、我々は、胃がんリスク検診においては、HP抗体価を10未満から、3未満を陰性とすることを提案します。 こうすることで、A群にピロリ菌感染者が紛れ込むことをかなり減らすことができます。
ただし、これで100%A群からピロリ菌感染歴を排除できるわけではありません。 特に高齢者は免疫力が低下しているので、ピロリ菌感染があっても抗体価が低下して、A群になってしまっている可能性が高く、 70歳以上ではA群の30%が偽陰性(ピロリ菌感染歴あり)です。
A群といえども、特に高齢者は一度は内視鏡検査をうけて、胃粘膜の状態を確認することが望ましいといえます。
また、過去にピロリ菌除菌療法を受けた方は、ピロリ菌治療が成功不成功にかかわらず、ピロリ菌感染歴のある方ですので、胃がんリスクがあります。 除菌後群(E群)として、定期的な胃の検査を受けるようにしてください。
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