水をしっかり、塩は加減して
今年の夏は猛暑で、熱中症で来院される患者さんが多くいらっしゃいました。
熱中症対策として、汗で出ていく水分と塩分の補給が言われていますが、塩分に関しては、私は、日本人の食事習慣はもともと塩分が多いことや、加工食品やコンビニのお弁当などが中心の場合には塩分過多になることから、それでも摂りすぎないように、とご指導申しあげています。
今月、国内と海外から、水分摂取と塩分摂取について興味深い論文が発表されましたので、ご紹介します。
やはり水分はしっかり摂るべし
JACC研究(The Japan Collaborative Cohort Study )で、飲食物からの水分摂取量が多いと、男女ともに心血管死亡リスクが低く、女性では虚血性脳卒中のリスクも低かったことが示されました。(Public Health Nutrition誌オンライン版2018年8月15日号)
このJACC研究は、文部科学省の科学研究費の助成を受け、多施設で約12万人の一般の方々の協力を得て、日本人の生活習慣などと病気との関連を明らかにする多目的研究です。
水分摂取量のデータ入手可能な40~79歳の男性2万2,939人、女性3万5,362人について、中央値19.1年を追跡中に男性1,637名、女性1,707名が心血管疾患で死亡、男女ともに水分摂取量が多いと、心血管疾患死亡リスクが少ない傾向がみられました。
水分摂取量の下位5%の参加者の心血管死亡の危険度を1とした場合、上位5%の参加者の心血管死亡の危険度は、男性0.88、女性0.79で、すなわち、「水分を多く摂る上位5%は、少ない下位5%よりも心血管疾患で死亡する率が少ない」ということが示されています。
また女性は、同様の比較で、虚血性脳卒中死亡の危険度は0.70で、「水分を多く摂る上位5%の女性は、虚血性脳卒中で死亡する率も少ない」ということが示されました。
塩は加減が大事です
カナダ・マックスマスター大学からは、21か国の大規模疫学コホート研究(Prospective Urban Rural Epidemiology試験)から、「ナトリウム摂取が1日5グラム(※食塩換算12.7グラム)を超える国においてのみ、ナトリウム摂取量の増加が心血管疾患や脳卒中と関連がある」ということが示されました。(Lancet誌2018年8月11日) [※ナトリウム量×2.54=食塩相当量]
一般人口集団から心血管疾患歴のない35~70歳を対象に、空腹時早朝尿から24時間ナトリウム・カリウム排泄量を予測し、これを摂取量の代用指標として検討。追跡期間の中央値は8.1年。
中国では103地域のうち82地域が平均ナトリウム摂取量が1日5グラムを超えたが、それ以外の国では、266地域のうち224地域で平均ナトリウム摂取量は1日3~5グラムでした。
全体で、平均ナトリウム摂取量の1グラムの増大は平均収縮期血圧値2.86mmHg上昇と関連していたが、その明らかな関連は、ナトリウム摂取量の上位3%の地域でのみ認められました。要は「塩分を多く摂る食生活の地域(人)が、更に多く塩分を摂ると血圧の上昇につながる」ということです。
面白いのは、ナトリウム摂取量が1日4.43グラム未満の地域の下位3%(平均摂取量:1日4.04グラム、範囲:3.42~4.43)では、平均ナトリウム摂取量1グラム増大によって、心血管イベントが減少(-1.00/1,000年、95%信頼区間[CI]:-2.00~-0.01、p=0.0497)したということ。
そして、中国(平均ナトリウム摂取量1日5.58グラム)では、平均ナトリウム摂取量1グラム増大による0.42/1,000年(95%CI:0.16~0.67、p=0.0020)の脳卒中イベント増加がみられたが、他国(平均ナトリウム摂取量1日4.49グラム)では脳卒中イベントの減少(-0.26/1,000年、-0.46~-0.06、p=0.0124)がみられました。
これは、「塩分摂取が少ない地域(人)は、もう少し塩分を摂った方がいい、しかし、中国(人)のように塩分摂取の多い国(人)は塩分を減らすべし」という結果です。
なお、すべての主要心血管アウトカムは、すべての国でカリウム摂取量の増加とともに減少する関連性が認められた、いうことで、「果物、野菜などカリウムの多い食物を摂ることが推奨」されます。
ちなみに、2012年時点での日本の成人1日あたりの食塩平均摂取量は、男性で11.3グラム(ナトリウム量換算4.45グラム)、女性で9.6グラム(同3.78グラム)と発表されています。
世界保健機関(WHO)は、世界中の人の食塩摂取目標を1日5グラムとしていますが、日本の場合、厚生労働省が2014年3月に「18歳以上の男性は1日当たり8.0グラム未満、18歳以上の女性は1日当たり7.0グラム未満」という目標量を定めています。
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