やはりマスクは有効です
新型コロナウイルス感染が終息しないまま、インフルエンザのシーズンを迎えようとしています。
万一新型コロナウイルスに感染しても、重症化する患者さんは極めて少ないので、過度に恐れる必要はないことがわかってきていますが、可能な範囲での予防策を講じておくことは、自分だけでなく、周囲への安心となります。
マスク着用の有用性に関しては、ウイルス粒子がマスクの繊維の隙間よりも極めて小さいことから、予防効果を疑問視する意見もありますが、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、唾液の飛沫に付着して飛散するので、飛沫粒子をブロックするマスクが、感染予防には有効と考えられます。 今回はマスクの有用性を示す報告と、飛沫の飛散シミュレーションによる感染リスクに関する研究報告をご紹介します。
マスク着用で医療者のCOVID-19抑制効果が明らかに (Wang X, et al. JAMA. July 14.[Epub ahead of print])
マサチューセッツ州最大の医療システムで12の病院と75,000人超の従業員を抱えるMass General Brigham(MGB)は、2020年3月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、医療従事者(HCW:health care workers )のCOVID-19の前兆に対する体系的な検査やサージカルマスクを着用した全HCWと患者に対してユニバーサルマスキングを含む多面的な感染対策の研究を実施した。その結果、MGBでのHCWのマスク着用習慣がHCW間の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性率の有意な低下に関連していたと示唆された。また、患者-HCWおよびHCW同士の感染率低下に寄与する可能性も明らかになった。
研究者らはマスク着用の病院方針とHCW間の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率との関連性を評価するため、2020年3月1日~4月30日の期間にPCR検査を受けた患者に対して直接的または間接的ケアを行ったHCWを特定した。
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HCWのユニバーサルマスキング実施前期間(2020年3月1~24日)
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患者のユニバーサルマスキング実施移行期間 (2020年3月25日~4月5日)と症状発現が認められた際の追加期間 (2020年4月6~10日)
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ユニバーサルマスキング介入期間 (2020年4月11~30日)
陽性率は全HCWの最初の検査結果での陽性を分子とし、検査2回目以降での陽性は除外した。分母には検査を一度も行っていないHCWとその日に検査を行ったHCWが含まれた。解析には重み付き非線形回帰分析を使用した。
主な結果は以下のとおり。
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HCW:9,850人のうち、1,271人(12.9%)がSARS-CoV-2陽性だった。
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陽性者の年齢中央値は39歳、73%は女性だった。また、陽性者の職種内訳は、医師・研修医(7.4%)、看護師・医師助手(26.5%)、医療技術者・看護助手(17.8%)、その他(48.3%)だった。
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介入前のSARS-CoV-2陽性率は、0%から21.32%と指数関数的に増加し、加重平均は1日あたり1.16%増加、倍加時間( Doubling Time) は3.6日だった(95%信頼区間[CI]:3.0~4.5)。
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介入期間中の陽性率は14.65%から11.46%に直線的に減少し、加重平均は1日あたり0.49%減少した。また、 slope の傾きは1.65%変化し(95%CI:1.13~2.15%、p<0.001 )、介入前と比較して、1日あたり大きく減少した。
本物のコロナウイルス使い確認、やっぱりマスク効果あり (読売新聞 2020/10/23)
マスクによる新型コロナウイルスの感染予防と飛散防止の効果を本物のウイルスを使った実験で初めて確認したと、河岡義裕・東京大教授らのグループが22日、米国の専門誌に発表した。
実験は密閉空間でマネキンの頭部を向かい合わせた。ウイルスは直径約1000分の5ミリ・メートルの高濃度の飛沫(ひまつ)にし、飛散側の頭部の口から軽いせきにあたる風速2メートルで噴霧。吸入側の頭部の口で約20分間吸わせた。
頭部を約50センチ離した実験で、吸入側だけマスクをつけた場合は、両側ともつけない場合と比べて吸入量が布で17~37%、不織布で47~50%減った。飛散側だけマスクをつけた場合では、布で57~76%、不織布で58~73%減り、いずれも一定の効果があった。
マスクの捕集効果に詳しい鍵直樹・東京工業大学准教授の話「プラスチック粒子などを使った実験と近い結果だ。本物のウイルスを使った点で説得力がある」
テーブル席は横が高リスク 理研、スパコン富岳で確認 (共同通信社 2020/10/14)
理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」で新型コロナウイルス対策の評価を進める同所などのチームは13日、「飲食店の4人掛けテーブルで最も飛沫(ひまつ)をかぶるリスクが高いのは、感染者の正面ではなく横に座る人」などとする飛散シミュレーション結果を発表した。隣り合う席の間に仕切りを設けるなどの対策と換気を組み合わせるのが重要だとしている。
また、福島や岐阜などで集団感染があった合唱のリスクも調べた。歌は会話の数倍の飛沫が発生し、多人数で同じ方向を向いて歌うと、前列の演奏者に向かう流れが発生する。これに対し、口元を覆うシールドを着けると流れが抑制されるとした。人数を絞るのもリスク低減に有効という。
今回は忘年会のほか、ベートーベンの合唱付き交響曲「第九」演奏会など、冬場のイベントへの対策を検討した。 飲食店のシミュレーションでは縦60センチ、横1・2メートルの標準的な大きさのテーブルに2人ずつ向き合って座り、相手に顔を向けてしゃべるシーンを想定。感染者の横に座った人は距離が近いため、浴びる飛沫は感染者の正面に座った人の5倍、はす向かいの20倍になった。飛沫は直進傾向が強く、話す相手以外にはほとんど届かなかった。
理研の坪倉誠(つぼくら・まこと)チームリーダーは「正面の席からの飛沫は顔に装着するシールドで防ぎ、横の席への対策としては仕切りが有効だ」と話した。
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