ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2023年01月号掲載
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便潜血検査陽性を放置していませんか?

今年度も多くの皆さまに目黒区民健診を受けていただきましたが、「便潜血検査」で陽性(出血あり)と診断されたものの、大腸内視鏡検査を受けずに放置されている方が少なからずいらっしゃいます。先日も昨年度健診での便潜血検査陽性を放置して、今年の健診でも再度陽性であったため、今回は説得して大腸内視鏡検査を行っていただいたところ、進行がんがみつかった患者さんがいらっしゃいました。幸い術前検査では転移もなく手術も可能でしたが、1年前に発見していれば開腹手術ではなく内視鏡治療が可能だったかもしれません。

便潜血検査陽性と大腸がん

便潜血検査はがんの診断ではなく、大腸からの出血の有無をみる検査です。大腸がんの組織は正常大腸粘膜よりも脆く、排便の際に便が擦れて出血しやすいので、便潜血検査で陽性、すなわち消化管出血の疑われる方は、大腸がんが存在している可能性が高いのです。便潜血検査では、大腸がんからの出血だけでなく、痔や腸の炎症、良性の腫瘍からの出血も拾い上げますので、便潜血検査陽性=大腸がんというわけではありません。大腸がん検診で便潜血検査陽性と判明した方に大腸内視鏡検査を行った場合、日本消化器がん検診学会の報告によると、癌の発見率は3.6%と報告されています。「たった3.6%」じゃあ自分は大丈夫、とおもわれるかもしれませんが、人間ドックなどで無症状の方に大腸内視鏡検査を行ってもほとんどがんは見つかりませんので、検査をやっている側からすると、100人検査して3~4人にがんが見つかるというのは、とても大きな数字です。

また同学会では、大腸がん以外に、37%の患者さんに大腸腺腫が発見されると報告しています。大腸腺腫は良性腫瘍ですが、将来的にがん化したり、がんを合併する可能性があるので切除が原則ですが、多くの場合は内視鏡切除が可能で、小さな腺腫であれば検査時に切除してしまうことができます。

便潜血検査は大腸がんの早期発見だけでなく、予防にもつながるわけです。

便潜血検査の弱点

便潜血検査で陽性であっても、「自分は痔があるからおそらく痔からの出血だろう」、「排便時に痛かったので、肛門が切れたに違いない」、「大腸内視鏡は辛いのでいやだ」・・・、といった理由で内視鏡の精密検査を受ない方が多いことです。日本消化器がん検診学会は、便潜血陽性者の大腸内視鏡検査受診率は55.4%と報告しており、半数弱の方は陽性のまま放置しているのが現状です。便潜血検査を受けても陽性を放置したのでは、検査を受けた意味が全くありません。

また便潜血陽性の結果を告げると、内視鏡検査ではなく便潜血検査の再検査をご希望される方も少なからずいらっしゃいますが、これは全く意味がありません。

もし、再検査で陰性(出血なし)であっても、前回の出血原因が治った、無くなった、というわけではありません。炎症性病変からの出血で、その炎症が治った可能性はありますが、多くの場合は2度目の検査のときには病変からの出血がなかった、もしくは血液の付着した部分から便を採れなかったのです。便潜血検査で日を替えて2回採取していただくのは、たまたま出血がなかった、上手く採れないという可能性があることを踏まえています。

がんがあるのに、便潜血検査の2回の採便でうまく出血が拾えない可能性ももちろんあり、便潜血検査で大腸がんを捕捉できる率は7-8割といわれています。これはすでに大腸がんの診断がついた患者さんに対して便潜血検査を行い、陽性になる率が70~80%という研究結果によるものです。

便潜血検査陰性=大腸がんは無い、ではないのです。

上手な便潜血検査の受け方

2020年の国立がん研究センターの統計で、大腸がんは、男性で肺、胃についでがん死亡数の第3位、女性では2003年以降、第1位にいます。(図1)

日本人で死亡数の多い5つのがんを比べると、大腸がんはそのほかのがんとくらべ、10年生存率の高い癌であることが分かります。(図2)

大腸がんは、がんのタイプにもよりますが、総じて進行が遅く、早期発見、早期治療のメリットが大きい、すなわち「検診を行う価値が高い」といえます。

「年に1度の便潜血検査による大腸がん検診」は、わが国において死亡率減少効果(受けた人が、受けていない人よりも大腸がん死亡率が低い)が証明されているがん検診なので、がんの発生率が上昇する「50歳以降では、毎年必ず受ける」ことが基本です。

しかし、便潜血検査は完全な(100%がんを拾い上げる)検診ではありませんので、実際にがんがあっても陰性になっている可能性もあります。しかし毎年受け続けることで、昨年拾えなかった出血を今年は拾える、かもしれません。大腸がんは比較的進行が遅いので、1年遅れて発見したとしても救命可能であることが多いです。また毎年陰性が続いている場合には、その信頼度(がんがない可能性)は単年度の検査結果よりも高いと言えます。

「陽性の場合は、必ず内視鏡検査を受ける」ことは言うまでもありませんが、「過去に陽性を放置している場合も、次回また便潜血検査を受けるのではなくて、内視鏡検査を受ける」べきです。「昨年便潜血陽性だったけれど今年は陰性だから大丈夫、ではない!」のです。

便潜血検査は日本オリジナルのがん検診で、米国では大腸がん検診として「5年に1度の大腸内視鏡検査」を推奨しています。これは5年に一度内視鏡検査を受けている集団は、受けていない集団よりも大腸がん死亡率が低い、という研究結果に基づいています。5年に1度でいいの?と心配におもわれるかもしれませんが、大腸がんは進行がおそいので、5年のサイクルで発見できれば、救命できる状態でがんが診断できるということです。

従って「便潜血検査が陰性が続いていても、5年に1度は大腸内視鏡検査を受ける」ことで、便潜血検査の弱点をカバーできるとおもいます。

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