ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
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2023年02月号掲載
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アルツハイマー型認知症の新薬
アルツハイマー病治療薬レカネマブが国内承認申請されました

アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」

1月6日、米国食品医薬品局(FDA)がエーザイと米バイオジェンが共同で開発したアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」を迅速承認すると、エーザイは1月16日に日本でも承認申請し、年内の承認取得を目指しています。 現在、認知症の7割程度を占めるといわれるアルツハイマー病の原因ですが、脳内にアミロイドβ(ベータ)と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積することで神経変性が起こり、アルツハイマー病が進行することがわかっていますが、レカネマブは、この原因物質アミロイドβが固まる前の段階で人工的に作った抗体を結合させて取り除くことを狙った薬です。

これまで国内で承認されている認知症薬のドネペジルは、神経変性のために減少する神経伝達物質、アセチルコリンの減少を抑える薬であり、原因物質に直接働きかけるものはなかったため、一時的に症状を緩和させ、進行を遅らせる効果しかありませんでしたが、「レカネマブ」は神経細胞が壊れるのを防ぎ、病気の進行そのものを抑える効果が期待されています。ただ、壊れてしまった神経細胞を再生させることはできないため、発症する前の「軽度認知障害」の段階や、発症後、早期に投与することが重要だとされています。

「レカネマブ」の治験成績

「エーザイ」と、東京大学やイエール大学などの研究グループは2022年11月29日、アメリカの医学雑誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に臨床試験の結果を発表しました。

臨床試験

日本を含むアジア・北アメリカ・ヨーロッパの235施設が参加し、50歳から90歳までの早期のアルツハイマー病の患者1,795人を2つのグループ、薬・レカネマブを投与するグループと、体に害のない生理食塩水を投与する偽薬のグループにわけ、2週ごとに1回点滴し、それを18か月続け、患者の認知機能の変化などを調べました。早期アルツハイマー病というのは、「認知症を発症」してから数年ぐらいまでの「軽度アルツハイマー病」と、その前の段階の「軽度認知障害(MCI)」のことを指します。

認知機能の低下は

薬の投与を始めて1年半後の時点で比較すると「レカネマブ」を投与したグループでは、偽の薬を投与されたグループより認知機能の低下がおよそ27%抑えられ、症状の進行を遅らせる有効性が確認できたとしています。

アミロイドβの量

アルツハイマー病の原因とされる脳にたまる異常なたんぱく質、「アミロイドβ」の量も薬を投与されたグループでは大幅に減少したということです。

安全性

薬を投与された患者の17.3%の人で脳の出血が、12.6%の人で脳の腫れが報告されたということです。これは、偽薬を投与された患者よりも高い割合で、研究グループは今後も長期的な安全性の確認を行っていくとしています。


11月29日国際アルツハイマー病会議で臨床試験結果の追加報告を行いました。


臨床試験

「レカネマブ」を投与したグループと、偽の薬を投与したグループで認知機能の低下に変化があるかを調べました。

認知機能の低下は

レカネマブを投与したグループでは偽の薬のグループと比べて認知機能の低下を7か月半、遅らせるとみられることが分かったということです。

軽度な症状の持続

「レカネマブ」の投与によって、アルツハイマー病がより軽度の状態で持続する期間がこれまでよりも2年半から3年1か月、延長される可能性が示唆されたということで、グループではこうしたことから「介護負担の軽減につながる可能性がある」としています。

安全性

臨床試験の期間中に死亡した人の割合はレカネマブを投与したグループで0.7%、偽の薬を投与したグループでは0.8%と、ほとんど差はなかったということです。

わが国の65歳以上の認知症患者は600万人を超え、2025年には高齢者の5人に1人が認知症患者になると推定されており、「レカネマブ」の国内での承認に期待がかかりますが、クリアしなくてはならない課題もあります。

「レカネマブ」はアミロイドβの沈着による神経変性が進む前の、早期アルツハイマー病の時期に投与しないと効かないため、脳へのアミロイドβの沈着状態をきちんと診断する必要がありますが、アミロイドPETという脳画像を撮影できる施設は少なく、検査費用も高額で、今のところ保険適用されていません。

そして、「レカネマブのような抗体薬は高額なので、承認されたときには、保険適用の範囲、対象者をどうするのかという問題もあります。ちなみに米国での薬価は一人当たり年2万6500ドル(約340万円)と設定され、投与前の検査には1回数十万円掛かります。

「レカネマブ」承認に向けて、国は、効果や安全性の確認だけでなく、検査や薬の提供体制、医療費の問題を検討することになりそうです。

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