ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2023年06月号掲載
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水素療法をご紹介します

水素療法に関する商品は玉石混交で、宣伝文句にも未だ胡散臭い印象があることも確かです。

一昨年には「水素水生成器」の販売・レンタル業者が消費者庁から景品表示法に基づく誤認排除措置命令を受けました。明確な根拠なく「水素水の摂取には、活性酸素除去、がん抑制、老化防止、美容効果、ダイエット、筋肉疲労軽減など、様々な効果がある」と表示していたというのが、その理由です。

私は水素を日常生活に取り入れて効果を感じており、同業者の間でも水素愛好者は多いので、誤解を避けながら水素医療についてお話したいとおもいます。

Once upon a time

かつて我々の先祖は40億年ぐらい前から海底火山の熱水噴出孔の周囲で発生し、二酸化炭素をメタンに代謝しながら細々と生きていたと言われています。いわゆる古細菌(アーキア)です。そこから30億年くらい前に直接の祖先である核を持った真核細胞生物が現れ、25億年くらい前には、水と二酸化炭素からでんぷんを光合成し、酸素を放出する葉緑素を持ったシアノバクテリア、酸素を代謝するプロテオバクテリアが現れ、この二つのバクテリアが真核細胞生物の細胞内に共生するようになり、現在の植物の元になりました。

かつて地球上の大気のほとんどは二酸化炭素だったのが、植物の繁栄による「大気汚染」で酸素が多くなり、現在の二酸化炭素濃度は4億年前の1万分のに減少しています。

さて、ご先祖さまはプロテオバクテリアと共生することで、細胞内にミトコンドリアを得ました。ミトコンドリアが酸素を使って糖を代謝することで、メタン代謝や嫌気性呼吸とは比べ物にならないエネルギー産生が可能になり、動植物の急増、進化が始まります。現在の私たち人間の繁栄はすべてはミトコンドリアのおかげ、ということになります。

酸素は僕らの味方なのか?

私たちの生きる源である「酸素」ですが、生物にエネルギーを与えてくれる半面、我々にとって不都合な面も持ち合わせています。例えばりんごの切り口は、放置しておくとペクチンが酸化されて茶褐色になります。鉄がさびて朽ちるのも酸素の仕業です。缶詰や真空パックの食品が長持ちするのは、酸素との接触を遮断しているからです。

我々の細胞内でも酸素は悪さをしています。ミトコンドリア内で酸素が消費されて糖を代謝するときに数%の活性酸素が発生します。スーパーオキシド(O2-)、ヒドロキシラジカル(OH-)などの活性酸素は細胞毒性を持ち、我々の免疫能の一翼を担っており、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃してくれるのですが、過剰な活性酸素は我々自身の細胞も攻撃してしまいます。

そんな諸刃の剣である活性酸素から我々自身を守るために、私たちはスーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素を持ち、過剰な活性酸素を還元して無毒化しています。食事などで摂取するビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどの抗酸化物質も抗酸化酵素の活性を高め、活性酸素から私たちを守ってくれます。

しかし活性酸素が増え過ぎると、こうした抗酸化防衛機構のはたらきを上回ってしまう「酸化ストレス」と呼ばれる状態になり、免疫機能の低下や動脈硬化の進行、がんの発症の可能性が高まります。また活性酸素は老化を進行させ、シワやシミの原因にもなります。

活性酸素が増える原因として、紫外線や放射線、大気汚染、たばこやアルコール、肥満、過労や強いストレスなどが挙げられますが、それらを避けたとしても、私たちは活性酸素の害から完全に逃れることは出来ません。それは先祖が進化のクロスロードで、ミトコンドリアと手を握ったことで得た繁栄と引き換えの「身から出たさび」なのです。

そこで「水素」の出番です

水素2分子は酸素1分子と結合し水2分子になります。

反応性の高い活性酸素は抗酸化酵素の働きで、水素と反応して水になります。すなわち毒性の強い活性酸素が水素と結合することでH2Oとなり、無毒化されるのです。また水素がNrf2というたんぱく質の代謝経路に作用して、抗酸化酵素の活性を高めることもわかっています。

これが水素の健康効果の根拠の基本です。

しかしながら大気中に水素はほとんど存在しないため、人工的に取り入れるしかありません。

母なる水素、実は忍者

水素元素Hは、中学校で習った元素周期表(水兵リーベぼくの船、と覚えるやつです)の原子番号1番で、いちばん小さい原子です。水H2Oを代表に、水素は化合物の形で地球上にあまねく存在していますが、常温で無味、無色、無臭の気体の水素分子H2は、地球上で一番軽い気体で、小さく軽すぎて大気中に存在し続けられず、宇宙空間に放散していってしまいます。ちなみに水素は宇宙の総質量の4分の3、全原子の90%を占めると見積もられており、まさに「母なる元素」と言えます。

水素は水を電気分解することで簡単に得られます。また水素を含む化合物の化学変化でも水素を発生させることができますが、小さい分子であるために、水素は閉じ込めておくことができません。ほとんどの容器は水素にとってはざるのようなもので、水素分子は容器素材の分子の間隙を忍者のようにすり抜けてしまいます。いわゆる水素燃料自動車の実用化が難しいのも、水素の閉じ込めが難しいことが要因の一つです。

水素分子が小さく、あらゆる物質を通過してしまうことは、水素の医療利用のメリットになっています。

例えばある物質がある細胞、例えば肝臓がんの細胞に作用することが試験管の中での実験で確かめられても、生きている人間の肝がん細胞にその物質を送り届けられるかは別問題です。

水素はすべての物質を通過するので、全身のどの細胞にも届けることができます。水素ガスを吸入することで、H2は肺から動脈血に溶け込み血液循環に入り、全身の細胞、そして活性酸素の発生源であるミトコンドリアの内部に到達することができますし、水素を溶かした物質を服用することで、消化管からH2が吸収され血液循環に入ります。直接水素を溶かした物質ではなく、消化管内で水素を発生する物質の服用でも同様の効果が得られます。水素を溶かした物質を皮膚に付着させることで、皮膚からH2を吸収させることも可能です。

ただしいずれの方法でも、体内に入った水素がすべて細胞内のミトコンドリアまで到達できるわけではなく、H2はどんどん体内から出て行ってしまうので、歩留まりをよくする工夫が必要です。高濃度で大量の水素を長時間投与することで体内に滞在する量を増やせますが、水素は酸素存在下での濃度が4%を超えると爆発する危険があるので、水素の濃度と量には安全性上の限界があります。また摂取する水素の濃度や量と、健康効果に関する基準がありませんので、水素量の少ない手法でも健康や美容に効果がある可能性がある、と言えてしまう、それを否定できない、というのが水素医療の効果を語る難しさの要因の一つになっています。

水素の経口摂取1(水素水)

水素を溶かした物質の摂取では、水素水が一般的です。水素の水に対する溶解度は0.021㏖/ml(0℃)と極めて低く、また水中からどんどん放散していってしまうため、水素を水の中に留めておくことは困難です。ペットボトルでは密閉しても水素を保つことはできず、総アルミ製(蓋まで)の容器であればある程度保つ効果があると言われていますが、長時間の保存は無理ですし、蓋を開けたとたんに放散していってしまいます。一時期流行したボトル入りの出来合いの水素水が、今はほとんど見かけなくなったのはそのためです。

現在水素水の主流は水素水サーバーです。水の電気分解で発生した水素のバブルを水に溶かしこむのが主流ですが、電気分解で発生する時間当たりの水素の量は電力量に比例するので、機種の大きさ(電極の大きさ)とスペックがある程度相関するはずです。そして機種のスペック以上に大切なのは、サーバーから発生した水素水は「できるだけ早く飲む」ことです。

水素化合物のパウダーやタブレットを水に入れ、化学反応で発生した水素が溶けた水を飲む、という水素水摂取法もありますが、こちらは経口摂取2(水素サプリメント等)の項で解説します。

水素の経口摂取2(水素サプリメント)

水素サプリメントは、水素を吸着したカルシウムやマグネシウムの多孔質素材(ミクロの穴が無数にある素材)の製剤です。多孔質の物質は小さい体積の中に極めて広い表面積を有しており、そのミクロの穴の表面に水素を大量に吸着する性質を持っています。これが水に触れると、カルシウムやマグネシウムのイオンとH2が発生します。

天然のものでは、化石化して海底に堆積しているサンゴカルシウムや、岩塩由来の精製マグネシウム塩が多く使われています。

人工的なものはフラナガン水素と呼ばれる、酸化ケイ素に、クエン酸カリウム、炭酸カリウム、硫酸マグネシウム加えたものがあります。パキスタンの山岳地帯の長寿村フンザの水の組成を模して開発されたと言われています。多孔物質であるケイ素から効率よく水素を発生させる工夫がなされている製剤です。

ゼオライトは沸石と呼ばれる岩石で、酸化ケイ素と酸化アルミニウムの結晶構造が重なった多孔物質です。極めて強い水素吸着力を持ち工業分野でも利用されています。水素サプリメントには人工合成されたものが利用されていますが、食品添加物扱いであるため、服用量に制限があり大量に摂取することができません。

多孔質ではなく、えごま油などの植物油を原料した製剤もあります。油脂に含まれる不飽和脂肪酸に含まれる水素原子を、陽イオンを使って水と反応させで、H2を得るという手法で作られており、「植物由来」を売りにしています。

これらの物質を水に溶かすことで水素水にして飲む、または水と一緒に飲んで、体内で水素を発生させることになりますが、発生した瞬間からどんどん抜けていく水素の特性を考えると、体内発生のサプリメントの方が水素の歩留まりはいいとおもいます。

どの水素サプリ製品もこれらの物質を単独または配合して製剤化していますが、水素の発生量はメーカーの能書きを信頼するしかありません。電気分解の水素水と違って、水素以外の成分を一緒に摂取することになるので、その成分の安全性や自分に必要なものかどうかの判断が必要です。またカプセルや基材によって、有効成分の体内での溶け出し方が大きく異なります。溶けやすい製剤だと胃の中で一気に大量の水素を発生し、難溶性のカプセル製剤だと小腸まで到達して少量長時間の水素発生になり、同じ水素発生量でも、求める効果によって剤型を選択する必要があります。

水素を閉じ込めたマイクロバブルを溶かしたゼリー製剤は、コラーゲンやDHAなどの健康成分+水素として、アルミの個包装パックに充填されていますが、これはアルミボトルの水素水の進化形と言えます。

水素の経口摂取3(番外編)

実はサプリメントなどに頼らなくても、我々の体内では自然に水素が発生しています。腸内細菌は1,000種・1,000兆個以上あり、その中には代謝によって水素を発生する菌があります。

水素産生菌は腸管内のように酸素の少ない環境下では、嫌気性代謝により乳酸を分解し、水素を発生します。

2Lactic acid(乳酸) + Acetic acid → 1.5Butyric acid + H2(水素) + 2CO2 + H2O 

よって代謝により水素産生菌の餌になる乳酸を発生する乳酸菌、乳酸菌の餌になる食物繊維も、間接的な「水素サプリメント」と言えます。

腸内で発生する水素ガスは腸管の蠕動運動に関与しており、水素ガスを産生する菌が多い人では蠕動運動は早いことがわかっており、便秘しにくい可能性があります。

一方、腸内細菌には代謝によりメタンを発生する菌もあり、メタンガスを産生する細菌が多い人は、腸管の蠕動運動が遅いこともわかっており、腸内細菌の水素産生菌とメタン酸性菌の比率が、消化管疾患の発生頻度に影響があるということも、今注目されています。

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