ひもんやだよりWEB版
ひもんやだよりWEB版
ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2024年02月号掲載
!

夜間頻尿
高齢者の夜間の頻尿は死亡のリスクを高めます

人間の一日の尿量は約1000~2000mL、一回の排尿量は約200~400mLであり、排尿回数は、日中は5~7回程度、夜間(就寝中)は0~1回が標準です。

加齢とともに、頻尿、特に夜間頻尿の方が増えます。日本排尿機能学会が2002年に行った調査によると、60代では39.7%、70代では62.0%、80代では83.9%の人が夜間排尿の症状を抱えており、40歳以上の約4500万人が夜間頻尿を患っています。

東北大学医学部の泌尿器科の2012年の報告「高齢者における夜間頻尿と死亡率・骨折発生の関連」によると、70歳以上の高齢者を5年間追跡調査したところ、夜中に1回トイレに行く人の死亡率を1とした場合、2回の人の死亡率は1.59倍、3回の人は2.34倍、4回以上になると3.6倍と、夜間にトイレに行く頻度が高いほど、死亡率も高くなるということがわかりました。

なぜ夜間にトイレに行く回数が多いと死亡リスクが高まるのか?

夜間頻尿が死亡リスクを上げる直接の理由はわかりませんが、頻尿の原因となる病気が死亡リスクを高めている可能性、そして頻尿がもたらす様々な悪影響が重なって、死亡リスクを上げていることが推察されます。

排尿により体液量が急激に減少することで血圧が変動し、体温も奪われるため、特に気温の低い時期には夜間の排尿が、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞の引き金になる可能性もあります。

夜間頻尿がもたらす長期的な健康への悪影響としてまず考えられるのは、睡眠障害をもたらすことで、生活習慣病やがんのリスクを高めてしまうことです。

また、夜間に尿意で目覚め、寝ぼけまなこでトイレに向かうのは危険です。転んだり階段から落ちたりして、骨折や直接の死因となるような頭部打撲を受傷する可能性があります。

また睡眠不足は骨生成を妨げるため、夜間頻尿の高齢者は骨粗鬆症が進みやすく骨折もしやすい。そして一度骨折すると治りにくく、寝たきりになる可能性が高く、寝たきりになると誤嚥性肺炎での死亡リスクが格段に高まります。前述の東北大学での調査でも、夜間に2回以上トイレに起きる高齢者は1回以下の高齢者に比べ、転倒による骨折のリスクが2.63倍に上ることが明らかになっています。

夜間頻尿の原因

夜間頻尿の原因には、主に次の3つがあり、それらが重なっている場合も少なくありません。

夜間多尿

夜間に尿の量が多くなり、何度もトイレに起きてしまいます。

寝る前に水分を取りすぎると、夜中にトイレに起きることは、若い人でも経験します。特に、カフェインやアルコールなど利尿作用のある飲料を大量に飲むと、尿量が多くなります。

また加齢による筋力や血管の収縮力の低下も、夜間多尿の原因となります。筋力や血管の収縮力の低下により血液の循環が悪くなり、身体を起こしている日中には重力の影響で下半身に水分が貯留し「むくみ」ます。そして夜、横になると、下半身にたまっていた水分が上半身に移動し、心臓に戻ることで循環する水分量が増えて、身体は寝る前に大量の水を飲んだのと同じような状態になり、尿が大量に生成されてしまいます。

膀胱蓄尿障害

膀胱内に溜めておける尿量が少なくなることで、すぐに尿意を催してしまう状態です。

膀胱は、尿を溜めながら風船のように膨らみ、十分に溜まると、収縮して尿を排出します。通常は200mLほど尿がたまったところで尿意を感じ始め、400mLほどたまってから排尿するのですが、何らかの原因で膀胱畜尿障害になると、膀胱に十分に尿をためることができず、少ない尿量でも尿意を感じてしまうのです。

膀胱は筋肉の層で包まれていて、伸び縮みすることで尿量によって膀胱の大きさを変えることができるのですが、加齢によって膀胱の筋肉が弛緩してしまった場合には、しっかり尿を貯めておけない、出しきれなくなり、その結果排尿回数が増えてしまいます。また膀胱の神経が過敏になると、膀胱の筋肉が過剰に収縮していまい膀胱の容量が小さくなってしまい、頻尿はきたします。これは若い女性にもよくみられ、過活動膀胱と呼ばれています。

また男性の場合は、前立腺肥大症によって膀胱の出口が塞がれて尿の流れが悪くなり、一度に尿を出し切ることができなくなり、頻尿をきたすことがあります。

睡眠障害

眠りが浅いことで、少しの尿意でも気になってしまい、トイレに頻回に行く場合があります。

また、睡眠時無呼吸症候群から夜間頻尿になることもあります。睡眠中の体内では、通常は、体を休息モードにする副交感神経が優位になっています。副交感神経が優位なとき、私たちは尿意を感じにくくなります。健康なときや若いとき、昼間に比べて、夜間にトイレに行くことが少ないのはそのためです。「睡眠時無呼吸」とは、睡眠中に呼吸が10秒以上止まる状態のことであり、無呼吸状態のときに血液中の酸素濃度が低下し、血圧や心拍数が上昇します。すると、体を緊張させる交感神経が優位になり、膀胱が収縮して、尿意を感じやすくなってしまうのです。

夜間頻尿への対応

まずは、夜間の飲水過多、特に睡眠前に水分を過剰摂取を避けることです。ただし、睡眠中も呼吸や発汗で体は水分を放出しているので、特に気温の高い時期は、脱水にならないための循環水分の確保は必要です。1日の飲水量は体重の 2~2.5%を標準と考え、水分摂取量と接種時間を調整してください。また夜遅い時間にできるだけカフェインやアルコールを摂らないようにしましょう。カフェインには利尿作用があり、緑茶、特に玉露には、コーヒーの2倍以上のカフェインが含まれています。アルコールにも利尿作用がありますが、特にカリウムが含まれているビールや果実酒は頻尿になりやすくなります。

また心不全や高血圧で利尿剤を服用されている方は、できるだけ午前中に服用してください。夜になるとむくみが強くなるからと言って、遅い時間に利尿剤を服用すると、夜間頻尿の原因になります。前述したように下半身のむくみ自体も夜間頻尿の原因になりますので、日中にスクワットなど下半身の運動を行ったり、弾性ストッキングを着用するなどで、下半身のむくみを出来るだけ解消する努力をしてください。

過活動膀胱による膀胱蓄尿障害には抗コリン薬や、選択的 β3 アドレナリン受容体作動薬での治療が有効ですが、便秘や口渇などの副作用もありますし、緑内障や循環器系の合併症などがある場合には使えない薬もあります。夜間のみの頻尿であれば、副作用を減らす目的で、作用時間の短い薬を少量使うなどの工夫を行います。

前立腺肥大症によって、下部尿路閉塞症状のために残尿量が増加し、機能的膀胱容量が低下している場合には、α1 遮断薬が有効です。また長期的は肥大した前立腺を縮小させるために 5α 還元酵素阻害薬を併用したり、手術療法が有用な場合もあります。

睡眠障害に対しても、寝る前のカフェイン、アルコールはマイナスに働きます。カフェインには覚醒効果がありますし、アルコールの催眠作用から寝酒を習慣化している方もいますが、飲酒による酩酊は、中途覚醒しやすくなります。遅い起床や、長すぎる(40分以上の)昼寝は、夜間の不眠の原因となります。眠前にぬるめのお湯に入浴することは睡眠の質を高めますのでお勧めです。そのような生活習慣の改善をしても改善しない睡眠障害には薬物を使用いたしますが、作用時間の短い入眠剤を、寝る直前に服用し早めに就眠することが望ましい。睡眠時無呼吸症候群の方には、経鼻的持続陽圧呼吸法の器材導入が推奨され、これにより夜間頻尿が減少するという報告もあります。

直接の対策ではありませんが、就眠時におむつを着用することや、ベットサイドにポータブルトイレを置くこともお勧めできます。お漏らしへ不安から睡眠が浅くなる、頻繁にトイレに起きてしまうことがありますが、おむつをしていることによる安心感で睡眠の質が高まり、尿意が減ることも期待できます。ポータブルトイレで排尿することで、寝ぼけまなこでの移動がなくなり、転倒や骨折のリスクを軽減できますし、すぐ近くにトイレがあるという安心感から、頻尿が改善される可能性もあります。

ページ先頭へ