ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2024年04月号掲載
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歯を守りましょう
歯の数が少ない人ほど寿命が短く、認知症の発症率も上昇します!

歯や口腔の健康状態が全身に及ぼす影響については、多くの研究が報告されています。

厚生労働省による、平成23年歯科疾患実態調査では、65歳以上の日本人2万人以上を対象とした4年間の調査で、残った歯の数が少ない人ほど寿命が短くなることが明らかになっています。残存20歯以上の人に比べて、死亡率は10~19歯の人で1.3倍、0~9歯の人で1.7倍に上昇し、また残存歯19歯以下では認知症発症のリスクが上がる、要介護状態になる危険性も高いと報告されています。

今回、東京医科歯科大学から、残存歯の数と失った歯の補綴治療による回復と、死亡率や機能障害の減少、知的能力の維持、外出頻度、食生活の改善とが関連する可能性があることが示唆する詳細な報告がありました。

口腔の健康と健康状態・ウェルビーイングとの関連の網羅的な検証研究

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の木野志保講師と相田潤教授の研究グループは、東北大学、千葉大学、ボストン大学、国立保健医療科学院の研究者と共同し、2013年の口腔の健康と2019年の35の健康やウェルビーイングの指標との関連を同時に網羅的に検証し、口腔の健康状態と死亡が最も頑健な関連性を示すことが明らかになり、口腔の健康を増進すること、また歯を失っても歯科補綴治療でこれを回復することによって、死亡率、身体的機能障害リスクの低減、知的能力の維持、外出頻度、食生活の維持に寄与する可能性があることが示唆されました。

本研究では、2010、2013、2019年の日本老年学的評価研究の15,905名分の縦断データおよび日本老年学的評価研究と紐づけた32,827名分の2019年の介護保険データを使用しました。口腔の健康状態は、「20歯以上」、「10~19歯で歯科補綴あり」、「0~9歯で歯科補綴あり」、「10~19歯で歯科補綴なし」、「0~9歯で歯科補綴なし」、の5つに分類しました。

2010年の人口統計学的情報等を考慮した上で、2013年の口腔の健康状態と、2019年の身体・認知・精神的健康、主観的ウェルビーイング、利他的行動、健康行動などを含む35の健康とウェルビーイングの指標との関連を検証しました。

その結果、「歯が20本以上ある人に比べ、20本未満の人は6年後の死亡リスクが10~33%高く、身体的な機能障害のリスクが6~14%高い」ことがわかりました。さらに、歯が20本未満の人は、外出の頻度が少なく、野菜や果物を食べる量が少ない傾向にありました。また、残存歯が0~9本で歯科補綴を使用していない人は、重度の身体的な機能障害を有する可能性が高く(リスク比(RR):1.17、95%信頼区間(CI):1.05~1.31)、知的活動が少なく(標準化差:0.17、95%CI:0.10~0.24)、絶望感を感じる割合が高いことが明らかになりました(RR:1.21、95%CI:1.04~1.41)。

(矢印の数はP値(結果の確からしさ)に基づく。矢印3つ(p<0.0014)は、より確かな関連を示し、矢印2つ(p<0.001)、矢印1つ(p<0.05)と順に結果の確からしさが弱くなることを意味している。また、矢印の向きは指標の確率の方向性を示している。例えば、0-9歯の者は死亡する割合が有意に高く、口腔の健康状態が悪い者ほど果物野菜摂取頻度が有意に低いことを示している。)

【原著論文】
掲載誌:Journal of Prosthodontic Research
論文タイトル: Exploring the relationship between oral health and multiple health conditions: An outcome-wide approach

8020運動

平成元年に厚生労働省と日本歯科医師会は、愛知県で行われた疫学調査の結果などを踏まえて、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という数値目標を掲げた運動を開始しています。「20」は「自分の歯で食べられる」ために必要な歯の数を意味します。今までに行われた歯の本数と食品を噛む(咀嚼)能力に関する調査によれば、どの性・年齢層でも自分の歯が20本以上残っている人は、硬い食品でもほぼ満足に噛めることが科学的に明らかになっています。

高齢になると残っている自分の歯の数は少なくなり、2016年の厚生労働省の調査では、です。後期高齢者の平均値は約16本で、20本以上の歯を持つ人は46%、約3割の人が総入れ歯を使っています。

しかし昔に比べると歯の喪失状況は改善傾向にあります。たとえば60歳前後(55~64歳)に注目すると、1975年では14本でしたが、2016年には24本まで増加しています。

歯を失う原因と予防

歯が抜ける最大の原因は歯周病です。

歯周病は、歯茎や歯を支える“歯槽骨”が溶ける病気で30歳以上の成人の約80%がかかっていると言われています。歯周病を引き起こす細菌は酸素の少ない場所で生息するものばかりです。そのため、歯茎に炎症が起きて歯と歯茎の間にある溝が深くなり歯周ポケットを形成し、酸素が届きにくい歯周ポケットの奥深くで歯周病菌が増殖し、歯垢を形成します。歯垢は粘着性が強くうがいをした程度では落ちません。そして歯周病菌から排出される毒素によって歯槽骨が溶けます。発症初期には無症状で経過するものの、進行すると膿が出たり歯がぐらついたりして、最終的には歯が抜けます。

糖尿病、喫煙、歯ぎしり、不適合な冠や義歯、不規則な食習慣、ストレスも歯周病を悪化させる原因となります。

歯周病菌による炎症で発生する毒性物質は、歯肉の血管から全身に入り、様々な病気を引き起こしたり悪化させる原因となります。炎症性物質は、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせたり(糖尿病)、肥満・血管の動脈硬化(心筋梗塞・脳梗塞)にも関与しています。

歯周病菌のなかには、誤嚥により気管支から肺にたどり着くものもあり、高齢者の死亡原因でもある誤嚥性肺炎の原因となっています。歯周病菌がもつ"ジンジパイン"というタンパク質分解酵素はアルツハイマー病悪化の引き金をもつ可能性も示唆されています。

<歯周病のセルフチェック>
1.口臭を指摘された・自分で気になる
2.朝起きたら口の中がネバネバする
3.歯みがき後に、毛先に血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある
4.歯肉が赤く腫れてきた
5.歯肉が下がり、歯が長くなった気がする
6.歯肉を押すと血や膿が出る
7.歯と歯の間に物が詰まりやすい
8.歯が浮いたような気がする
9.歯並びが変わった気がする
10.歯が揺れている気がする


チェックが1~3個の場合:歯周病の可能性があるため、軽度のうちに 治療を受けましょう。
チェックが4~5個以上の場合:中等度以上に歯周病が進行している可能性 があります。早期に歯周病の治療を受けま しょう。
チェックがない場合:無症状で歯周病が進行することがあるため1年に1回は歯科検診を受けましょう。

歯を守るためには、歯周病の原因となる歯垢をためない、増やさないことが予防の基本です。そのためには正しい歯磨きを毎日実行し、歯垢のない清潔な状態にしておく事が何より大切です。歯肉の中まで入っている歯垢や歯石はブラッシングでは完全に取り除くことはできませんので、歯科医院で専門的なクリーニングを定期的に受けることをお勧めいたします。

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