ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
〒152-003 目黒区碑文谷2丁目6-24
TEL.03‐5704‐0810
2024年05月号掲載
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紅麹、はしか、人喰いバクテリア
最近ご質問の多い話題

紅麹サプリメント
ご心配な方は腎機能検査を受けてください

小林製薬の「紅麹」を含むサプリメントを摂取後に、3月末の時点で、腎疾患が疑われる5人が死亡、入院者数が延べ114人と報道されています。

同社はこうした健康被害の訴えを受けて「紅麹コレステヘルプ」など3商品の自主回収を発表していまいます。また、他社向けに販売する「紅麹原料は」日本国内と台湾の飲料・食品メーカーなど52社に供給されていて、小林製薬側から商品の使用中止と、自主回収を呼び掛けています。

麹は、米、麦、大豆などの穀類に、食品の発酵に有用なカビを繁殖させたもので、味噌や醤油、食酢、味醂、日本酒、焼酎、泡盛などの発酵食品の製造に利用されています。麹菌にはさまざまな種類があり、味噌、醤油、味醂、日本酒には黄麹菌、泡盛には黒麹菌、焼酎には黒麹菌、白麹菌が使われており、麹はこうした麹菌の一種である紅麹菌を米に植菌して発酵させたもので、鮮やかな紅色が特徴です。沖縄の伝統食品である豆腐ようの製造などに用いられるほか、天然色素としても広く使われています。

近年、紅麹の健康効果に関する研究が進められ、降圧効果、血中脂質低減作用、認知機能改善作用、抗酸化作用など、様々な効果が報告されており、小林製薬は「紅麹由来成分を機能性関与成分とした、LDL(悪玉)コレステロールを下げる機能性表示食品」を2021年に発売したわけです。

現段階では小林製薬の紅麹サプリメントの、どの成分が今回の健康被害の原因になったのかはわかっていません。

紅麹菌の一部の菌株が産生するカビ毒「シトリニン」は人体への腎毒性があるため、当初このシトリニンが原因物質ではないかと疑われましたが、培養物を分析したところ、シトリニンを産生する菌株は検出されませんでした。全ゲノム解析を行っても、生成する遺伝子は機能しておらず、遺伝子レベルでカビ毒シトリニンが生成不能であることが証明されました。

また厚生労働省は、会社側の調査で健康被害の訴えがあった製品のロットで、青カビから発生することがある「プベルル酸」という物質が確認されたことを明らかにしましたが、原因物質かどうかはわかっていません。プベルル酸は毒性は高いものの、腎臓への影響は現時点では明らかになっておらず、今回確認された「プベルル酸」が当該製品中に含まれた経路もわかっていません。

今回のような薬剤性の腎障害の多くは「尿細管間質性腎炎」という病態で、腎臓を構成する尿細管を中心に炎症が起こった状態です。尿細管は腎臓の糸球体で作られた尿から、必要な物質を再吸収する働きをしていますが、この再吸収が妨げられると、身体の栄養やミネラルのバランスが崩れます。

日本腎臓学会の調査報告によると、紅麹による腎障害が疑われる患者さんの初診時の主訴は、半数以上の症例で倦怠感や食思不振、尿の異常、腎機能障害で、腹部症状や体重減少を訴えるかたも少なからずおりますが、発熱や嘔吐、頻尿、浮腫や体重増加などを呈する方は比較的少なく、Fanconi症候群を疑う所見が目立ってるとのことです。Fanconi症候群は近位尿細管の機能不全によって生じる疾患で、ブドウ糖、アミノ酸、尿酸、リン酸、炭酸水素塩(HCO3)が再吸収されずに尿中にそのまま排泄されてしまいます。

尿細管の障害は糸球体腎炎と違って血尿やタンパク尿が現れにくいので発見が難しく、無症状のまま炎症を繰り返しながら、徐々に腎機能が低下する場合もあります。

紅麹サプリメントや紅麹色素を使った加工食品を摂取した可能性のある方は、腎機能検査をお受けになることをお勧めいたします。

麻疹(はしか)
抗体検査、予防接種をご検討ください

麻疹(はしか)の発生が散発的に報告されています。ロックコンサートの観客や、海外からの入国者、空港職員の感染がニュース報道されましたが、国立感染症研究所の報告によると、2024年第11週現在で累積報告数は20例で、11週(3月10日~16日)には9例、感染地域は、大阪府2例、大阪府/アラブ首長国連邦1例、インド2例、アラブ首長国連邦1例、タイ1例、国内・国外不明2例。年齢群は0歳(2例)、2歳(1例)、15〜19歳(1例)、25〜29歳(2例)、30〜34歳(3例)です。

麻疹は麻疹ウイルスによる感染症で、患者のせきやくしゃみで放出されたウイルスを飛沫粒子を吸い込んだり、触れた手指から気道に入ることで感染します。飛沫や接触感染だけでなく空気中に滞留するウイルスからも空気感染するため感染力が極めて強く、免疫がなく、感染対策がとられない場合、患者1人から何人に感染を広げるかを示す「基本再生産数」は「12から18」とされています。因みに新型コロナウイルスは「2から3」ほどです。

感染すると肺炎、中耳炎、脳炎を合併しやすく、先進国でも死亡割合は1,000人に1人と言われています。また10万人に1人程度と頻度は高くないものの、麻しんウイルスに感染後、特に学童期に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる中枢神経疾患を発症することもあります。

感染してから約10日後に発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が現れ、2~3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と発疹が出現しますが、発症初期は特徴的症状に乏しく、比較的軽症なので診断が難しい場合もあります。

麻疹ウイルスに対する特効薬はありませんが、ワクチン接種が予防に効果的です。麻疹の予防接種をすると、95%以上の人が抗体を獲得し、抗体は10年程度維持されます。

現在麻疹の予防接種は公費の「定期接種」として、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を、1歳以上2歳未満のときに1回目、小学校入学前の5歳以上7歳未満の時に2回目を接種することになっています。2007年の流行時には、ワクチンを接種していない0歳から1歳の子どものほか、1回しか接種していない10代や20代を中心に感染が広がったことがあるため、定期接種対象の小児は必ず接種することをお願いいたします。

大人に関しては、現在50歳代以上となる1972年(昭和47年)9月30日生まれまでの人は、定期接種が始まっておらず、ワクチンを一度も接種していない可能性があります。ただし、この世代は幼少期に何度も麻疹の流行を経験しているため、幼少期に感染してワクチンを接種していなくても抗体が十分あることも多い。麻疹は一度罹ると、ほぼ終生免疫が維持されます。

また2000年(平成12年)4月1日生まれまでの人は定期接種が1回のみで、接種後に麻疹流行がなかったために、抗体が減って免疫が十分ではない可能性があります。

麻疹の免疫があるかどうかは、採血検査で調べることができますので、ご心配な方はご相談ください。

劇症型溶血性連鎖球菌感染症
かぜ症状のあと、皮膚が赤く腫れてきたら要注意

急激に重症化する「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」の患者数が、過去最多だった2023年(941人)を上回るペースで増えています。国立感染症研究所は3月24日までに556人が報告されたと発表し、前年同期の2・8倍です。都道府県別では、東京が89人で最も多く、埼玉(42人)、神奈川(33人)、愛知(31人)です。

原因となるA群溶血性連鎖球菌(溶連菌)は咽頭炎などを起こす細菌で、通常は感染しても重症化することは滅多にありませんが、万一劇症化した場合には30%の方が亡くなるといわれています。人喰いバクテリアといわれる所以です。なお「溶血性」というのは、菌を血液寒天培地上で培養したときに赤血球を溶血させるという意味で、人間の体内で血液を溶かすということではありません。培地上での溶血のパターンから溶連菌はA群、B群に分類されています。「連鎖球菌」とは顕微鏡でみると、球菌が規則的に「連なった鎖」ような増殖をすることから名付けられています。

「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」の初期症状は、のどの痛み、発熱、悪寒、筋肉痛など普通の風邪症状ですが、急激に敗血症症状が進行し、皮膚や筋肉の壊死や出血傾向がみられ、発病から数十時間で呼吸不全や循環不全、腎不全などの多臓器不全から、死に至ります。初期症状なく突然敗血症になる例も報告されています。

劇症化する要因やわが国で患者数が増えている原因についてはまだわかっていません。コロナ禍における長期の自粛生活で、国民の免疫力が落ちているところに、海外渡航者や外国からの来訪者が急増し、病原性が高い株が国内に入ってきた影響が要因の一つとして考えられ、実際、病原性と伝播性が高いA群溶血性連鎖球菌であるS. pyogenes M1UK lineage(UK系統株)が増加していますが、UK系統株に感染しても劇症型となるのはまれです。

溶連菌感染症は小児に多い病気ですが、劇症化するのは30才以上の大人に多い傾向があります。劇症化の確率は極めて低いので、過度に恐れる必要はありませんが、短時間で急激に悪化するため、感冒症状に引き続いて、急速に広がる皮膚の赤みや熱感・腫れがあった場合には、すぐに医療機関を受診してください。

A群溶血性連鎖球菌の伝播は接触感染と飛沫感染によって起こりますので、予防対策としては、手洗いの励行や手指消毒、傷がある場合には傷をきれいに保ち、温泉、プール、川や海に入るのは避ける。飛沫感染対策としてのうがい、マスクの着用が有用です。

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