菌、のようなもの?! マイコプラズマ肺炎が流行しています

マイコプラズマ感染の流行と、症状
マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)感染による、マイコプラズマ肺炎が流行しています。小児や若年者に多く、約80%は14歳以下ですが、成人の報告もみられます。マイコプラズマ肺炎は1年を通じてみられ、秋冬に増加する傾向があります。マイコプラズマ肺炎はオリンピックが行われる年に流行する(4年に1度流行する)傾向があるとして、別名「オリンピック熱」とも呼ばれており、基幹定点医療機関からの報告数は、2014年~2023年での10年でみると、最も報告数が少なかった報告年は2022年(395件)で、最も報告数が多かった報告年は2016年(19,721件)で、2024年は、2020~2023年と比較して報告数が増加しています。2016年はリオデジャネイロオリンピック、本年2024年はパリオリンピックの年です。
主な症状は、発熱、全身の倦怠感が先行し、その後喀痰を伴わない「乾いた咳」が数週間咳が続くことが特徴的です。発熱は38.5℃を越える高熱となり、咳に伴ってしばらく続くこともあります。
感染者の咳の飛沫を吸い込んだり(飛沫感染)、感染者と接触したりすること(接触感染)により感染しますが、空気感染(空中を浮遊する菌を吸い込むことでの感染)はなく、感染力はそれほど強くはありません。感染してから発症するまでの潜伏期間は長く、2~3週間くらいです。
原因病原体であるマイコプラズマ(Mycoplasma)は、真核生物を宿主とする寄生生物で、細胞壁をもたず細胞やゲノムが非常に小さく、細菌とウイルスの中間のような性質を持つのが特徴です。因みにMycoplasmaはラテン語で「菌類のようなもの」という意味で、「キノコ」を意味するmykesの語幹と、「物」を意味するplasmaを合成して名付けらました。
マイコプラズマ肺炎の検査の実際
発熱、長引く咳で受診された患者さんで、マイコプラズマ肺炎を疑った場合には。 肺炎を疑った場合、まずレントゲン撮影を行います。レントゲン画像により、マイコプラズマ肺炎以外の肺炎や、結核、肺がんの診断や否定を行うことができますが、マイコプラズマ肺炎のレントゲンの像は多様であり、レントゲン画像に異常を示さない場合も少なくないので、レントゲンのみでマイコプラズマ肺炎の診断をすることはできません。
レントゲンでマイコプラズマ肺炎以外の病気が否定された場合には、迅速診断キットを使い、喉の拭い液でマイコプラズマ抗原の検査を行います。同時にインフルエンザや新型コロナウイルスの迅速診断行うこともあります。迅速診断キットは院内で実施でき、15分程度で結果が出る簡便な検査なのですが、精度が低く(偽陰性が多い)、迅速診断キットで陽性ならばマイコプラズマ感染と診断できますが、陰性でもマイコプラズマ感染「ではない」とはいいきれません。
迅速診断キットが陰性で、強くマイコプラズマ肺炎を疑う場合には、採血検査で、ペア血清抗体検査を行います。感染初期と回復後の血液で抗体の量を比較します。ペア血清で抗体が陽転(陰性から陽性に変わる)または抗体価の有意の上昇があれば抗体検出あり、すなわちマイコプラズマ肺炎と診断できるのですが、院内で測定できないため、検査会社から結果が戻るまでに数日かかり、診断がついたときにはすでに症状は軽減していることが多く、あまり現実的ではありません。
採血検査ではあわせて白血球数とCRP(炎症反応)を測定します。こちらは院内の測定器ですぐに結果がでます。マイコプラズマ肺炎では白血球数の上昇に比べて、CRPの上昇が大きく、CRPの上昇の大きさが感染の強さを示すため、たいへん有用な検査です。
マイコプラズマ肺炎の治療の実際
発熱、長引く咳の症状が続き、迅速診断キットでマイコプラズマ抗体が陽性であった場合、陰性であってもレントゲン所見、白血球数とCRP(炎症反応)の数値からマイコプラズマ肺炎を疑った場合、またこれらの検査を行わない場合でも、症状経過と家庭や職場、学校などでの流行状況からマイコプラズマ肺炎の可能性が高い場合には、治療を行います。
マイコプラズマ肺炎の治療の基本は、抗菌薬(抗生物質)の投与です。飲み薬で治療できまます。抗菌薬はマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系が有効ですが、当院では、価格が安く、副作用の少ないマクロライド系の抗菌剤、クラリスロマイシン、アジスロマイシンを第一選択としています。ただしマクロライドに耐性のある(効きにくい)マイコプラズマも増えているため、これらが効かなかった場合にはニューキノロン系など、他の系統の抗菌剤に変更しますが、マイコプラズマは細胞膜が無いので、細胞膜を攻撃するペニシリン系やセフェム系の抗菌剤は効きません。
マイコプラズマ肺炎の重症化は少なく、治る病気です
マイコプラズマ肺炎は、咳や熱、倦怠感が長引きますが、重症化することは少なく、治療により完治する病気です。若い方に多い病気なので、薬を飲まなくても自然に治ってしまうことも少なくありません。症状が軽減すれば、出勤や登校に関する制限もありません。
ただし高齢者や長期喫煙者、がんの化学療法などで免疫力が低下している方なのでは重症化して入院加療が必要になる場合もあります。またマイコプラズマ肺炎の症状とおもっていたら、肺がんや結核など重篤な呼吸器疾患が原因である可能性もあります。
熱、乾いた咳が長引く場合には、ご来院ください。
ページ先頭へ