ひもんやだよりWEB版
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ひもんや内科消化器科診療所
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2025年05月号掲載
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質の良い睡眠を寝過ぎ、お昼寝は要注意

猫の昼寝のイメージ

暖かくなってきて、ついうとうとと昼寝をしてしまう方が多いとおもいますが、昼寝をし過ぎると夜寝つきが悪くなり、眠りが浅くなってしまいます。

夢はレム睡眠と呼ばれる浅い眠りの時にみることが多いと言われています。レムは「急速眼球運動(Rapid Eye Movement)」で、瞼の裏で眼球が左右に動いている状態での睡眠です。レム睡眠中は骨格筋が弛緩して休息状態にあるが、脳は活動状態にあるといわれます。

ノンレム睡眠は急速眼球運動を伴わない睡眠で、脳の活動は休止していますが、筋肉の活動は休止せず、「夢遊病」の行動があるのはノンレム睡眠時です。ノンレム睡眠時に大脳では情報の整理が行われています。不要な情報を削除し、大切な記憶は忘れないように定着させます。脳の容量には限界があるので書き換えを繰り返す必要があるのです。徹夜一夜漬けの試験勉強の知識が身に着かないのは、睡眠による記憶の定着が行われないためです。ノンレム睡眠時は脳が覚醒していないため、夢遊病や夢の記憶は残りません。ノンレム睡眠からレム睡眠を経ずに急に覚醒すると、大脳が休止状態からすぐに活動できず、「寝ぼけ」た状態になります。

レム睡眠がみられるのは、鳥類と哺乳類だけで、なんと鳥類は脳を半分ずつ眠らせることができ、飛びながら眠ることができるそうです。現実と夢を同時体験しながら旅ができるなんて、羨ましいですね。

さて、通常入眠から約3時間で最初のノンレム睡眠の状態になると言われています。ちょうどその頃に成長ホルモンが分泌され子供は身長が伸びるのですが、大人も成長ホルモンによって細胞の修復を行っています。皮膚を含む全身で古い細胞が新しい細胞に更新されますので、寝不足は美容にもよくないのです。

その後ノンレム睡眠とレム睡眠を4~5回繰り返して覚醒するのですが、覚醒が近くなるとコルチゾルというホルモンの分泌が高まります。コルチゾル分泌は光刺激の影響も受けます。コルチゾールは体脂肪をエネルギーに変えて覚醒後の運動に備えます。よって寝不足は肥満の原因にもなります。

近年「眠りの質」ということがよく言われますが、身体の休息であるレム睡眠と、脳を休ませるノンレム睡眠をバランスよく繰り返し、成長ホルモンとコルチゾルの分泌がタイミングよく行われている状態が、質の良い眠りと言えます。質の良い眠りをしていれば、睡眠時間は短くてもよいという意見もありますが、私はそうはおもいません。質の良い眠りには適正な時間帯に連続した睡眠時間が必要です。

多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告

平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田、東京都葛飾の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、調査アンケートに回答し、がんや循環器疾患、糖尿病になっていなかった男女約10万人を、平成26年(2014年)まで追跡した調査結果にもとづいて、睡眠時間とその後の全死亡及び主要な死因別にみた死亡リスクとの関連を調べました。(原著:Journal of Epidemiology 2020年2月)。

対象者(99860人、男性46152人、女性53708人)から回答いただいた研究開始時の調査アンケートの結果をもとに、日頃の睡眠時間を5時間以下、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間以上のグループに分け、その後、平均約20年の追跡中に、18042人(男性:11259人、女性:6783人)の死亡が確認されました。死亡に関連する年齢、地域、喫煙、飲酒、緑茶摂取、コーヒー摂取、独居状況、健診受診の有無、余暇の運動頻度、高血圧、ストレス、肥満度(BMI)の影響を統計学的に調整し、睡眠時間が7時間のグループと比較した他のグループの、その後の死亡リスクとの関連について検討しました。

平均睡眠時間は男性で7.4時間、女性で7.1時間でした。男女とも睡眠時間が10時間以上のグループでは、年齢が高く、コーヒーを摂取している割合が少なく、余暇の運動頻度が多く、心理的ストレスがあると感じている人が多い傾向でした。一方で、睡眠時間が5時間以下の人は、男性では、BMIが大きく、心理的ストレスがあると感じている人が多く、喫煙習慣や飲酒習慣がなく、独居の人が多い傾向でした。女性では、飲酒習慣がなく、健診を受診し、心理的ストレスを感じ、現在または過去喫煙のあった人が多い傾向でした。

図1 睡眠時間と死亡リスクとの関連

睡眠時間が7時間のグループと比べて、10時間以上では、死亡全体のリスクが男性で1.8倍、女性で1.7倍高くなりました(図1左)。循環器疾患死亡については、男性で、7時間のグループと比べて、9時間以上でリスクが高い関連が示されました(図1中央)。睡眠時間とがん死亡リスクとの関連はみられませんでした(図1右)。

この結果から、日本人では、睡眠時間が7時間のグループと比較して睡眠時間が長い場合に、死亡リスクが増加することが示されました。短時間睡眠では、食欲を抑制するホルモンであるレプチンの分泌が低下し、食欲を高めるホルモンであるグレリンの分泌が増加することにより、結果的に食欲が増して肥満を引き起こすことが考えられています。一方で、長時間睡眠では、閉塞性睡眠時無呼吸が多くなり死亡リスクの増加と関連することが考えられます。また、長時間睡眠では病気を持っている人が多く、より死亡に結びつきやすいことも示唆されています。

図2 睡眠時間の国際比較

寝不足だけでなく、寝すぎもよろしくないのです。ちなみに日本人の平均睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)加盟国中最短の平均7時間22分ですが、(図2)日本が長寿国であることからも、睡眠時間7時間が理想というのは頷けます。

北欧など一年間の日照時間の差が大きい国ではうつ病が多く、赤道に近い熱帯地域では少ないことからも、日照時間と睡眠、コルチゾル分泌は睡眠の質に影響があります。お日様にあわせた睡眠が理に適っていると言えますが、さすがに日没と同時に布団に入るのは無理ですから、できるだけ早寝早起きで、眠るときは完全に電気を消して、朝起きたらすぐにカーテンをあけることです。

質の良い眠りを妨げるものとして注目されているのは「お昼寝」です

2020年のヨーロッパ心臓病学会で、中国の広州医科大学が、昼寝と心血管疾患および全死亡リスクとの関連を検討した20件の研究論文の解析した結果を発表しています。この研究によると、昼寝を1時間以上する習慣のある人は、昼寝の習慣のない人に比べて心血管疾患の発症リスクが34%、全死亡リスクが30%も高いことが明らかになりました。更に夜間の睡眠時間が6時間以上の人においてのみ、1時間以上の昼寝が全死亡リスクの上昇と有意な関連があることが判明。全体では、昼寝の時間の長さに関係なく、昼寝の習慣がある人では、習慣がない人に比べて、全死亡リスクが19%増加したのです。特に女性と65歳以上の高齢者においては、昼寝の習慣のある女性全死亡リスクが22%、高齢者では17%増加していました。

体力が落ちている疾患リスクの高い人が長時間の昼寝をしてしまう傾向にある可能性があり、昼寝そのものが心血管疾患および全死亡リスクを上げる原因とは言い切れません。短時間の昼寝でレム睡眠に入ることによって、午前中の身体疲労を午後に持ち越さない効果はあるとおもいますが、長時間の昼寝から不十分なノンレム睡眠に入ったところで起きてしまうのは、心身に負荷がかることは推測できます。

夜間の睡眠時間が6時間以上の人においてのみ、1時間以上の昼寝が全死亡リスクの上昇と有意な関連があることからも、一日トータルの睡眠時間は、昼寝を加えて7時間以上はよろしくない、ということもいえますね。


ナポレオンのイメージ

若いころは眠る時間が惜しくて、明け方まで本を読んだり、映画を観ていましたが、最近は睡眠時間の確保を最優先にしています。お昼休みは診察室のベッドについ、ごろりと横になってしまうのですが、戒めようとおもっています。ナポレオンも睡眠時間をしっかりとっていれば、ワーテルローの戦いに敗れることはなかったのではないかしら。

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