ビタミン剤との付き合い方2
ビタミンB群は、栄養素からエネルギーを生成する代謝酵素の働きを助ける「補酵素」で、ビタミンB群が不足すると、十分にエネルギーを作り出せなくなるため疲労が回復できず、また長期の欠乏では皮膚や筋肉、神経に障害をきたしたり、貧血になります。ビタミンB群には、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ビオチン(ビタミンB7)、葉酸(ビタミンB9)の8種類があり、欠番があるのは後に同じ物質であったり、ビタミンではないことが分かり削除されたためです。
ビタミンの発見
日本海軍の水兵に足の浮腫、しびれ、動悸・息切れなどの症状が現れる「脚気」が蔓延しているのに対し、士官は脚気に冒されていないことに気づいた軍医大監高木兼寛は、食事の栄養の違いが脚気の原因と考えました。高木は1884年、水兵の食事の白米に大麦を加え、肉やエバミルクを与えたところ脚気がなくなったため、高木はタンパク質不足が脚気の原因と判断しました。目の付け所はよかったのですが、残念ながらビタミンの発見には至りませんでした。因みに陸軍の軍医総監森鴎外は、脚気の原因は栄養不足ではなく何らかの感染症と考え、海軍の考えには反対していました。
オランダの医師クリスティアーン・エイクマンは、滞在先のインドネシアで、ニワトリが餌によって脚気様の症状を起こすことから、1896年米ぬかの中に脚気に効く有効成分があると考え、1910年に日本人、鈴木梅太郎博士が米ぬかからこの有効成分を抽出し、イネの学名であるOryza Sativaにちなんで「オリザニン」と命名し、論文を発表しました。鈴木の論文は日本語で発表したため世界に広まらず、翌1911年にカジミール・フンクが、エイクマンの示唆した米ぬかの有効成分を抽出することに成功し、成分にアミンの性質があったため、「生命のアミン」vitamineと名付けました。 鈴木梅太郎とフンクが発見したのは同じ物質、ビタミンB1(チアミン)でした。この発見で鈴木梅太郎とフンクは、1912年のノーベル生理学・医学賞の候補になりましたが、残念ながら日本人とポーランド人研究者は受賞には至らず、1929年にオランダのエイクマンと、ビタミンB1の働きを証明した英国の化学者ホプキンズが、「ビタミンの発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
ブドウ糖をエネルギーに変えるビタミンB1

脚気の研究で発見された、最初のビタミンであるビタミンB1は、ブドウ糖をエネルギーに変換する際に必要な栄養素です。ブドウ糖がピルビン酸になるまでを解糖系といい、酸素を使わずにエネルギーを少し産生します。ピルビン酸はさらにアセチルCoA(コエンザイムA)になり、TCAサイクルに入って酸素を消費して代謝されます。 最終的には二酸化炭素と水になり、たくさんのエネルギーを産生します。ビタミンB1はピルビン酸からアセチルCoAに変わる際に必要なビタミンです。
ビタミンB1は、水溶性ビタミンなので、過剰に摂取しても尿中に排泄され蓄積されにくいため、通常の食事で摂り過ぎる心配はありません。逆にサプリメントなどで一度にたくさん摂っても効果は限られています。ビタミンB1の摂り過ぎで頭痛、イライラ感、いらだち、頻脈、接触皮膚炎、かゆみなどの症状が現れる場合があります。
ビタミンB1が不足すると、ブドウ糖から十分にエネルギーを産生できなくなり、食欲不振、倦怠感、四肢のだるさなどの症状が現れます。また、脳はブドウ糖をエネルギー源としているため、ビタミンB1が不足すると脳や神経に障害を起こします。長期間のビタミンB1不足は、重症な場合は脚気(足の浮腫、しびれ、動悸・息切れ)や、ウェルニッケ脳症(意識障害、眼球運動障害、運動失調)、物忘れが主症状となるコルサコフ症候群を起こし、コルサコフ症候群は不可逆で、症状が出てからビタミンB1を補充しても改善しません。
ビタミンB1は、肉類、魚類、豆類、穀類、種実類などに多く含まれています。穀類では米ぬかや小麦胚芽に多いため、白米にするとビタミンB1の含有量は少なくなります。ビタミンB1はアリシンと結合してアリチアミンになると吸収率が高くなるため、アリシンを多く含むニンニクやタマネギを使った調理で効果を高めることが期待できますが、アリチアミンは熱に弱いのと、水溶性なのでスープや煮物では汁の方に移行してしまうことにも注意が必要です。
因みにアリチアミンはビタミン剤でお馴染みのアリナミンの語源です。いわゆるにんにく注射の主成分はアリチアミンで、注射していると鼻の奥でにんにくの臭いを感じてくるのはそのためです。にんにく注射は体力回復に即効性があるといわれていますが、水溶性ビタミンは一度に大量摂取しても、すぐに尿から排泄されてしまうので持続的な効果は期待できません。
成長と代謝、皮膚の健康のビタミンB2(リボフラビン)

ビタミンB2は、1912年に合成飼料だけでは成長しなかったラットにミルクを与えると成長したという実験から、乳の中に含まれる成長因子として、当初はビタミンG(=Growth)と呼ばれていました。その物質がリボフラビンという化合物であるかということがわかり、ビタミンB1と似た性質を持つことから、ビタミンB2と呼ばれるようになります。ビタミンB2はリボフラビンにリン酸が一つ結合したフラビンモノヌクレオチド(FMN)、またはFMNにAMPが結合したフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の形で存在し、どちらも消化管で消化されビタミンB2になります。
吸収されたビタミンB2は生体内で再びFMNやFADに変換されて、糖質、たんぱく質、脂質の代謝、エネルギー産生に関与する酸化還元酵素の補酵素として働きます。成長期の発育促進に重要な役割を果たすほか、皮膚、髪、爪などの細胞の再生にも関与しているので、美容にも大切なビタミンであるといえます。
ビタミンB2は、魚介類、肉類、藻類、豆類、乳類、卵類、野菜類、種実類などに多く含まれています。ビタミンB2は熱には強いの加熱調理で失われることは少ないのですが、水溶性なのでスープは煮物にした場合は、汁の方に移行しやすいので、注意が必要です。
腸内細菌もビタミンB1を産生してくれるのですが小腸で消化吸収されるので、食品からの摂取が重要です。エネルギー消費の多い方は、サプリメント等で補充することは有用かもしれません。
水溶性ビタミンなので大量に摂取しても、余剰分は尿中に排泄されるので、過剰障害は起こりにくいですが、逆に大量にとっても効果は期待できません。サプリメントは食事のタイミングにあわせて、適正量をこまめに補充することをおすすめします。
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