ビタミン剤との付き合い方3
ビタミンB3(ナイアシン)は皮膚の健康と美容に効果が認められています

ナイアシンはニコチン酸とニコチンアミドの総称です。必須アミノ酸の一つであるトリプトファンから動物の体内でナイアシンが合成できるため、生合成できないというビタミンの定義からは外れますが、ヒトはトリプトファンを合成できないので、広い意味でビタミンとして扱われています。
ニコチン酸やニコチンアミドはニコチンアミドやニコチン酸は小腸から吸収され、体内でピリジンヌクレオチドに生合成された後、脱水素酵素の補酵素として糖質、脂質、タンパク質の代謝、エネルギー産生に関与しています。また脂肪酸やステロイドホルモンの生合成、ATP産生、DNAの修復や合成、細胞分化など、幅広い反応に関与しています。
生体内においては、ナイアシンはトリプトファンから生合成され、腸内細菌もトリプトファンからのナイアシン合成を行っているので、現代の通常の食事をとっていれば欠乏症になることは少ないのですが、ペラグラというナイアシン欠乏による重篤な皮膚病の研究が、ビタミンB3の発見につながりました。ペラグラの語源はイタリア語の pelle agra=粗い皮膚で、おもな症状は、赤い発疹ができる皮膚症状、口舌炎や下痢などの消化管症状、神経障害です。18世紀にゲーテが『イタリア紀行』に同地で発生していたペラグラについて記していて、患者がトウモロコシを常食することが原因ではないか、と推測しています。この頃イタリアからバルカン半島の主食はトウモロコシの粉からつくるポレンタで、ポレンタしか食べていない農民や貧困層にペラグラが多く発症していて、20世紀初頭に至ってもアメリカ合衆国では致死率50%を超え、毎年10万人が死亡していました。
はじめは細菌感染によるものと考えられていましたが、1926年にアメリカの医学者ジョセフ・ゴールドバーガーはトウモロコシを常食する者でも乳製品や肉を日常的に摂取している人にはペラグラが発症しないことに着目し、肉や乳製品に含まれる何らかの栄養が不足することが原因であると発表し、1937年に至ってドイツの生化学者コンラッド・エルヴェヘムがレバーからナイアシンの抽出に成功し、ナイアシンを補うことで、ペラグラを治癒できるようになりました。
ナイアシンを豊富に含む食品はカツオ、サバ、ブリ、イワシ、レバー、鶏ささみ、マグロ、シラス干し、たらこ、豆類、コーヒーです。水溶性のビタミンなので摂り過ぎても尿から排出されるため、過剰症の心配は少ないのですが、サプリメントなどで大量に摂取すると、ナイアシンの血管拡張作用やヒスタミン放出作用により、「ナイアシンフラッシュ」とよばれる顔面紅潮や上半身のほてり、かゆみが現れることがあるので、個人差はありますが注意が必要です。ナイアシンフラッシュが気になる人は、ナイアシンアミド(ニコチン酸アミド)を成分とするサプリメントを選択することをお勧めします。
ビタミンB3は補酵素として糖質、脂質、タンパク質代謝への代謝に関わり、身体のエネルギーを生み出し、特に皮膚の健康に大きく関与していることは、欠乏症であるペラグラの研究からも明らかです。
ナイアシンには表皮の角質層に存在する細胞間脂質であるセラミド合成を促進するバリア機能修復作用が認められています。またニコチン酸アミドのメラノソーム移送を阻害による作用により色素沈着、シミやそばかすを防ぐ、いわゆる美白効果が認められていて、2007年にP&Gの申請によって「D-メラノ」という成分名で、医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認されています。またコラーゲン合成量を増加させる作用により、皮膚の皺を改善させる効果があり、医薬部外品表示名「ナイアシンアミド」は、コーセーの申請によって2017年に医薬部外品シワ改善有効成分として厚生労働省に承認されています。これらの皮膚への効果からナイアシンアミド(ニコチン酸アミド)は化粧品の成分としても広く使われています。
ナイアシンは傷ついたDNAの修復や、正常なDNAの合成を促進することから、発がんを抑制する効果が期待されていて、ナイアシン投与により皮膚がん患者のがん再発を抑制するという報告があります。またステロイドホルモンの合成に関わることから、ビタミンB3は男性機能維持やアンチエイジングにも有用な役割を果たしています。
欠番のビタミンB4(アデニン)は生命の源

アデニンは1885年、ドイツの医学者アルブレヒト・コッセルによって抽出されたプリン体(=プリン骨格を持った核酸塩基)です。膵臓から抽出されたので「腺」を意味するギリシア語"aden"が命名の由来です。アデニンはDNAやRNAの塩基の1つとして遺伝情報の記録、伝達に用いられ、またアデニンとリボースからなるアデノシンにリン酸が3つ付いたものがATP(アデノシン3リン酸)で、クエン酸回路など、細胞内でのエネルギー産生の場において中心となる物質です。
アデニンはプリン代謝によって体内で合成されるので、ビタミンではありませんが、ビタミンB4と誤認された理由は、アデニンがビタミンB2(ナイアシン)、B3(リボフラビン)と結合し、NAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)、FAD(フラビン・アデニン・ジヌクレオチド)となり、エネルギー代謝の補酵素として働くためです。プリン体というと尿酸値を上げて痛風の原因になる悪い物質とおもわれてしまいがちですが、アデニンは遺伝情報とエネルギー代謝を司る、生命の源のような物質です。ビタミン以上の存在であったアデニンの発見を含む、アルブレヒト・コッセルの細胞生物学とくに蛋白質と核酸に関する研究に対して、1910年ノーベル生理学・医学賞が与えられています。
ATP(アデノシン3リン酸)は医薬品としても使われていて、商品名「アデホス」といえば、めまいの時に服用したことをおもいだされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ATPには「血管拡張作用」と「代謝促進作用」があり、眼精疲労による目の疲れ、メニエール病や内耳障害によるめまい、心不全、頭の外傷後におこる神経障害などの治療に使われます。
ちなみに過剰に摂取・産生されたプリン体や、エネルギー代謝により不要になったプリン体は、肝臓でプリン体→→→ヒポキサンチン→キサンチン→尿酸と変換され、血中に出て腎臓で尿から排泄されます。尿酸値を下げる薬は、この変換の最終段階に働く酵素キサンチンオキシダーゼの働きを阻害することで、肝臓での尿酸生成を抑えます。
ビタミンB5(パントテン酸)は誰もが知ってるヘアケア商品

パントテン酸は補酵素コエンザイムA の成分としてエネルギー代謝を助ける働きをしています。1933年米国の化学者ロジャー・J・ウィリアムズは酵母の生育に必要な成分である「ビオス」を発見し、ビオスは複数の物質から成ることがわかり、その中でも特に生物に広く利用されている酸を「パントテン酸」と命名しました。パントテンはギリシア語で「広くどこにでもある」という意味です。ビタミンB群の中では5番目に発見されたことから、パントテン酸はビタミンB5と呼ばれています。
コエンザイムAはアシルCoAに変化されて細胞内で脂肪酸の代謝に関わり、またアセチルCoAとなり、クエン酸回路に取り込まれエネルギー代謝の源であるATP(アデノシン三リン酸)生合成に使われます。1945年にコエンザイムAを発見したアメリカ人の生化学者。フリッツ・アルベルト・リップマンはこの研究により、ハンス・クレブスとともに1953年度のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。尚クレブスの業績は、今や高校の生物で教えている呼吸によるエネルギー代謝系、クエン酸回路を1937年に完成したことです。
またアセチルCoAは、神経伝達物質・細胞膜の材料となるコリンを神経伝達物質であるアセチルコリンに変えることで、神経細胞の合成を促し、神経伝達に関わる働きもあります。
パントテン酸が不足すると疲れやすくなり、食欲が低下し、便秘になります。パントテン酸は、注射薬(商品名パントール)、内服薬(商品名パントシン)として消化管運動を改善する医薬品になっています。めまい、頭痛、動悸、不眠、進行すると知覚の異常や成長障害をきたすこともあります。パントテン酸は幅広い食品に含まれていますが、特に肉類、きのこ類、乳類、魚介類、豆類などに多く含まれています。腸内細菌によっても作られ利用されるため、通常の食事をしていれば不足することはほとんどありませんが、コーヒーなどのカフェインを含む飲み物やアルコールを多く摂取するとパントテン酸を多く消費します。抗生物質を服用している場合も、有用な腸内細菌も減少しパントテン酸合成が抑えられるため、不足する恐れがあるので、サプリメントなどでの補充も有効かもしれません。水溶性ビタミンなので一度に大量に摂っても尿から排出されてしまいます。熱にも弱いので、食品を調理する際は注意が必要です。
パントテン酸の作用は、細胞内のエネルギー代謝を助ける他、ステロイドホルモンの合成を助けることによる抗ストレス効果、免疫への効果、善玉のHDLコレステロールの合成を促進し、動脈硬化を予防する効果など多岐に及びますが、特にお馴染みなのが、ビタミンCの働きを助けコラーゲン合成を促進することで、髪や肌を正常に保つ働きです。そもそもパントテン酸の欠乏でニワトリに皮膚炎が起こることが実験的に確認されたことが、パントテン酸の発見のきっかけでした。1944年にパントテン酸の類縁体のデクスパンテノールが保湿、創傷治癒の軟膏として商品化されました。またパンテノールには髪をなめらかにする働きがあることが発見され、1945年スイスの製薬会社ホフマン・ラ・ロシュにより、ヘアトニック「パンテーン」が発売されヘアケア商品の先駆けになりました。「パンテーン」ブランドの商品は現在も全世界で販売されています。
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