区民健診(特定健診)の検査項目を解説します -3- 糖尿病検査(血糖値、HbA1c、尿糖)

区民健診(特定健康診査)では糖尿病の検査として血糖値、ヘモグロビン(Hb)A1c、尿糖(定性)を測定しています。これらの数値による糖尿病の診断基準は、空腹時血糖値126mg/dl以上、随時血糖値200mg/dl以上、HbA1c6.5%以上で、このうちどれかが一つでも2回以上測定された場合に糖尿病と診断しますが、HbA1cのみでは診断できません。
尿糖は糖尿病の病名の由来にもなっている検査で、尿糖陽性は、血液中の過剰な糖が尿中に捨てられている状態を示しています。糖尿病の診断基準には採用されていませんが、健診では尿に浸した試薬テープの色調変化を目視で-、±、+、2+、3+の段階判定して、糖尿病診断の参考にしています。なお食事直後や妊婦の方、ビタミンCを大量に摂取した後は、糖尿病でなくても尿糖が陽性になることがあります。
これらの数値の意味を理解するためには、糖尿病とはどういう病気かを知る必要があります。
我々はグルコースを主たるエネルギー源として食事から摂取しています。小腸から吸収されたグルコースは血流によって全身の細胞に送り届けられますが、細胞内にグルコースを取り込むように指令しているのが、膵臓から分泌されるホルモン、インスリンです。細胞内に取り込まれたグルコースはエネルギーとして消費され、過剰なグルコースは短期的にはグリコーゲンとして、長期的には中性脂肪として細胞内に蓄えられます。私はいつも「血糖がお財布の中の現金、グリコーゲンが普通預金、中性脂肪が定期預金」とご説明しています。
食事を摂り、小腸からグルコースが吸収されると急激に血糖値が上がり、健常人では食後1時間で140mg/dl程度まで上昇し、その後インスリンの働きで血糖値は下がり、食後3時間で食前の血糖値、100mg/dl程度に戻ります。空腹時血糖値126mg/dl以上、随時血糖値200mg/dl以上という糖尿病の診断基準は、この理論に基づいています。
インスリンは血糖をコントロールする唯一のホルモンで、インスリンが欠乏する、もしくは働きが悪くなると、細胞内にグルコースが取り込まれなくなり、結果グルコースは血液中をグルグル回っているだけで、細胞のエネルギーにならない、エネルギーの貯蓄も行われない状態になります。
インスリンが欠乏する、もしくは働きが悪くなった状態が糖尿病です。インスリンがほとんど出ないのが1型糖尿病で、先天的な場合もあります。1型糖尿病の場合はインスリンを補充する治療を行います。圧倒的に多く、健診で見つけようとしている糖尿病は、インスリンの効きが悪い(これをインスリン抵抗性と呼んでいます)タイプで、2型糖尿病と呼ばれています。インスリンが細胞にグルコースを取り込むように指令しても、細胞が言うことを聞かなくなってしまっている状態がインスリン抵抗性で、その原因は多様ですが、代謝の異常や肥満による慢性炎症により、TNF-α、IL-6などのインスリンの指令伝達を妨げる悪玉物質が生成されることも要因であることがわかっており、2型糖尿病が生活習慣病とされているのはそのためですが、生活習慣だけでなく、体質的な要素も大きく影響しています。
というわけで、糖尿病とは一言でいうと「グルコースをいくら摂っても全身の細胞がエネルギーとして利用できない、蓄積できない病気」です。そして、使われないグルコースはどうなるかというと、血液中の蛋白質と結びついて「糖化反応」を起します。赤血球のヘモグロビンも蛋白質なのでグルコースと結びついてグリコヘモグロビンとなります。血液中のグルコースが多いほど、糖化されたグリコヘモグロビンは増えます。そしてグルコースと蛋白質の結びつきは不可逆的なので、一度生じたグリコヘモグロビンは元には戻りません。赤血球の寿命は120日程度なので、120日間は全身を循環しています。
グルコースの結びつく位置によって様々なグリコヘモグロビンが生じるのですが、そのうち「ヘモグロビンA1c」というタイプのグリコヘモグロビンが測定しやすいため、慢性的な高血糖状態の指標として臨床検査に利用されています。なお貧血の方はヘモグロビンが少ないため、HbA1c値を糖尿病の診断に利用することは出来ません。
血管壁も蛋白質なので、グルコースと結びついて糖化されます。糖化は不可逆なので高血糖状態が続くと糖化産生物はどんどん増えていきます。グリコヘモグロビンは120日で脾臓で分解されてしまいますが、血管壁の糖化物質は一生蓄積し続け、動脈硬化が進行します。高血糖による血管への糖化物質の蓄積とそれによる障害は、末梢の細い血管や細い血管が豊富な臓器に起こりやすく、これが糖尿病の三大合併症と言われる「糖尿病性腎症」、「糖尿病性網膜症」、「糖尿病性末梢神経障害」です。もちろん高血糖による産生する糖化物質は太い血管の動脈硬化も進めます。糖尿病の方が「心筋梗塞」や「脳血管障害」を起しやすいのはそのためです。
また前述したように糖尿病の本態は細胞の栄養不足で、慢性の栄養不足は細胞の代謝や免疫を低下させるため、糖尿病の方はがんや感染症のリスクも高い傾向にあります。
2型糖尿病は、インスリン先生のアドバイスを無視して家にお金を入れず、大量の現金を持ち歩いて悪い仲間にたかられ浪費して、ついには家庭崩壊するイメージの病気なのです。
当院ではAGEs検査を実施しています。
糖化によって体内に産生した物質はAGEs(Advanced Glycation End Products)と呼ばれ、直訳すると「進んだ糖化の最終産物」です。AGEsは糖尿病でなくても年齢とともに不可逆的に体内に蓄積されていくため、体内年齢の指標になります。実年齢の標準値よりもAGEs値が高ければ、加齢が進んでいると判断でき、もちろん糖尿病の方はAGEs値も高い傾向にあります。当院で区民健診を受診された方には、問診時にAGEsを測定して、生活指導の参考にしています。測定器の上に腕を乗せるだけで、約3分でAGEs値を測定できます。
AGEsの増加はタンパク質変化を引き起こし、糖尿病、動脈硬化、高血圧症、がん、腎疾患、骨粗鬆症、神経疾患など、加齢と関係性のある様々な疾患の誘発につながります。またAGEsは一生涯にわたり蓄積されますが、糖尿病疾患、腎疾患、心疾患などにより、その生成はさらに促進されてしまいます。
AGEs検査の詳細は「あなたの老化度がその場でわかる! ~AGEs検査を受けてみませんか~」の記事をご覧ください。
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