区民健診の検査項目を解説します -1- 身長、体重、腹囲測定とBMI/肝機能検査

今年度も6月から区民健診(特定健診・各種がん検診)が始まります。目黒区では法定の実施項目に加えて、中高年の健康管理上必要な検査(腎機能検査、尿酸値、アルブミン値など)を追加したプログラムを提供しています。高額な人間ドックを受けなくても、区民健診で十分な健康情報が得られるとおもいますので、ぜひご利用ください。
そんな充実した区民健診ですが、検査結果の理解が不十分だと受診後の生活習慣や医療に生かせません。また過度に心配してしなくてもよい我慢をしたり、高いサプリメントに無駄なお金を使っている方もいらっしゃいます。
今月からは、区民検診の実施項目の解説をしながら、私が何を大切に診療しているかもお伝えしていければとおもいます。
身長、体重、腹囲測定とBMI
区民検診で測定した身長と体重からBMI(Body Mass Index)を計算します。 「BMI値=体重(kg)÷身長(m)の2乗」で、成人の肥満度を示す体格指数です。例えば同じ体重40㎏でも身長1mではBMIは40で、2mだと10となり、身長が2乗で効いてくるので体表面積当たりの体重というイメージです。
我が国では日本肥満学会の基準で判定しており、BMI18.5未満を低体重、18.5~24.9が正常体重、肥満(1度): 25.0~29.9、肥満(2度): 30.0~34.9、肥満(3度): 35.0~39.9、肥満(4度): 40.0以上と判定します。男女とも標準とされるBMIは22.0で、糖尿病、高血圧、脂質異常症に最もなりにくい数値とされています。
国立がん研究センターの報告によると、男性では16万人を11年間追跡した調査において、全死亡リスクが最も低いのはBMI21.0~26.9、女性19万人11年観察でもBMI21.0~26.9の死亡率が低いという結果でした。身長160㎝であれば体重54㎏から69㎏を維持すれば死亡リスクを最小にできるということです。
死因ごとにみると、がん死亡は男性が全死亡と同様BMI21.0~26.9が少ないのに対し、女性はBMI19.0~29.9と幅が広く、女性については高度の痩せや肥満でなければ、体重はがん死亡のリスクに影響しないようです。
心疾患死亡は男性はBMI19.0~25.0のリスクが低く、これを越えるとリスクは急増するので肥満男性は要注意です。女性はBMI23.0~24.9が低リスクで、このレンジを離れるとBMIの低下、上昇に比例してリスクが上がります。脳血管疾患死亡は男性がBMI23.0~25.9、女性は23.0~26.9が最小の死亡リスクです。
死亡リスクの点からみると、男女ともBMI22の標準体重よりも、少し太り気味のBMI23.0~24.9ぐらいを保つのが良いようです
糖尿病と心血管疾患は肥満との関連が強く、BMIよりも「BRI(Body Roundness Index)」の方が、よりリスクを反映する指数として注目されています。BRIは日本語では「体丸み指数」で、身長と腹囲により計算され、糖尿病や心血管疾患などのリスクの高い「内臓脂肪型肥満」と呼ばれる、腹部に脂肪が集中するタイプの肥満の度合いを数値化しています。計算式は複雑ですが、自動計算してくれるサイト BRI(Body Roundness Index) Calculator があります。BRIの値は4から5の範囲が平均とされ、6を超えると体の丸みが増し、健康リスクが高まる可能性があります。
肝機能検査:AST(GOT)、ALT(GPT)、γGTP
肝臓は生体内で必要な物質を合成し、不要なのものや有害物質を分解する働きをしています。
区民健診では肝機能検査としてAST(GOT):アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ALT(GPT)アラニンアミノトランスフェラーゼ、γGTP:γ-グルタミルトランスペプチターゼを測定しています。
AST(GOT)とALT(GPT)の値は、肝細胞がどのくらい壊されているかをみる指標です。数値が高い程、何らかの原因で肝細胞がダメージを受けていて、肝臓の解毒能力、合成能力が落ちていると判断します。
肝細胞が破壊されると、細胞内にあるアミノ酸代謝酵素のAST(GOT)とALT(GPT)が血液中に出てきますので、AST(GOT)とALT(GPT)の値が高い=肝臓の細胞が壊されていることを示しています。AST(GOT)は代謝が早く半日程度で分解されますが、ALT(GPT)は2~3日血中に留まります。よって肝炎や脂肪肝の初期ではAST(GOT)<ALT(GPT)となり、慢性化するとAST(GOT)>ALT(GPT)となります。ALT(GPT)は肝細胞にしか存在しませんが、AST(GOT)は肝細胞以外にも心筋や全身の骨格筋にも存在しているため、肝臓の病気以外でも上がることがあります。
肝臓の病気が進行すると肝臓の線維化が起こります。ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎、自己免疫性肝炎、そして脂肪肝が慢性化すると、壊された肝臓の組織が線維化して元に戻らなくなります。やけどの跡が硬くなってしまうイメージです。そして線維化が極まった状態が肝硬変で、そうなると肝臓が身体に必要なものを合成できなくなります。
目黒区民健診では栄養状態の指標としてアルブミンの値を測定しています。アルブミンは肝臓で合成され、低栄養で原料不足だとアルブミン値は低下しますが、肝臓の合成能が低下している場合もアルブミン値は低下しますので、肝臓の働きの指標でもあります。また健診で測定している血小板値も肝臓の線維化の指標になります。肝臓が線維化すると肝血流量が低下して、その分が脾臓に流れ、脾臓の働きが亢進して血小板を壊してしまうのです。また血小板の合成を促進するエリスロポエチンという物質も肝臓で合成されていて、肝臓の線維化が進んでエリスロポエチンが減少すると血小板が作られなくなります。
区民健診で実施している項目だけで、肝臓の線維化の状態を簡易的に知ることができます。FIB-4 indexという指標で、年齢、AST、ALT.、血小板の4つの項目で線維化:FIB(fibrosis)を測ります。

で計算し、1.3以下は線維化の進行リスクは低い、1.3~2.67は線維化が進行している可能性あり、2.67以上では4~8割が肝硬変、または肝硬変に近い状態と推測されます。
お酒呑みの代名詞でもあるγGTPは、GOT、GPTといつもセットで測定されていますが、肝臓三兄弟の三男γGTPはお兄さん二人とはちょっと性格が違います。
γGTP:γ-グルタミルトランスペプチターゼは胆道系の細胞に多く存在します。胆道系とは肝細胞で作られる、脂肪を分解する消化液の胆汁が流れるルートのことで、肝内から十二指腸乳頭に至る胆管と、その途中にある胆汁を貯蔵する袋、胆のうのことです。γGTPはグルタチオンを分解する働きを持つ唯一の酵素です。グルタチオンは強力な解毒作用を持つ抗酸化物質です。
摂取したアルコールは肝臓でアセトアルデヒドになり、アセトアルデヒドは無毒化されて酢酸になり、酢酸は水と二酸化炭素になって、めでたく尿や呼気として体外に排出されるのですが、アセトアルデヒドが酢酸に無毒化される過程で、グルタチオンは補酵素として働きます。このときグルタチオンは還元型から酸化型に変わり、胆汁と一緒に胆道系に排出されます。そして胆道系の細胞からγGTPが分泌され、酸化型グルタチオンをグルタミン酸とシスティンとグリシンに分解し、分解されたこれらのアミノ酸は小腸から再吸収され肝臓で再び還元型のグルタチオンに合成されます。これがお酒を呑むとγGTPが上昇するメカニズムです。
AST(GOT)、ALT(GPT)は正常で、γGTPだけ高値という場合には、まだ肝細胞にはダメージはきたしていないと判断できますが、安心してはいけません(自戒を込めて)。この状態を長く続けているといずれは肝細胞にもダメージが及びます。
アルコール以外でもてんかんの薬や、向精神薬にもグルタチオンを消費して代謝しγGTP値を上げてしまうものがあります。
胆石や胆道系の炎症やがんで胆汁の流れが悪くなった場合にも、胆道系にうっ滞した胆汁からγGTPが吸収されて、血中のγGTPが上昇しますが、その場合はAST(GOT)、ALT(GPT)も上昇し、黄疸が出るなどの症状を伴うことが多い。γGTPだけ高く、AST(GOT)、ALT(GPT)正常でお酒も呑まないという方は、体質的に胆汁の流れが良くないことが考えられます。無症状で、γGTPを定期的測定して高値安定、ということであればそれほど心配はいらないとおもいます。
近年酸化ストレスとγGTPの関連が注目されています。γGTPと抗酸化物質であるグルタチオンの関連は前述したとおりですが、アルコールや薬物以外の酸化ストレスによっても同じようにグルタチオンが消費されγGTPが上昇する、またγGTP自体も酸化ストレス物質であるという報告もあります。酸化ストレスは薬物や、加工食品、ウイルス・細菌感染、身体的刺激、精神的刺激など様々な要因で起こります。
というわけで、ストレス解消のためにお酒を呑み過ぎるのは一番いけません(楽しく、適量なら・・・自己弁護を込めて)
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